ここから羽ばたくか! 初重賞Vの7年目・富田暁に大先輩騎手が贈る言葉

公開日:2023年9月13日 14:00 更新日:2023年9月13日 14:00

セントウルSでは師匠・木原調教師に恩返し

 師弟愛──。先週、日曜の阪神競馬場は、ひと昔前によく見た、いい光景が広がっていた。

 セントウルSでテイエムスパーダを勝利に導いた富田は7年目での重賞初勝利で、それを所属であり、師匠の木原師の管理馬で勝ったから陣営にはダブルの喜びとなった。

「こんな事あるんだね。引退までに何とか重賞10勝を、とは思っていたけど、まさか弟子で勝つとは。ホント、一番うれしいね」と木原師。声を詰まらせ、何度も目元を拭い、弟子の初重賞に感極まっていた。報道陣からも「いいレース後だった」の声を多く聞いた。

 富田の経歴を知れば、師匠の涙もよく分かる。競馬学校騎手過程への合格は高校2年の時。乗馬未経験者として、同期より2年遅い、第33期生として入学している。トレセン育ちとはまた違う畑から入った苦労人でもあるのだ。

「騎手として狡猾さは必要」(河内師)、「慎重になりがちだから大胆でもいい」(四位師)

 トレセン内で応援する人は多い。人柄を表すものがある。それが厩舎別の騎乗回数。

 一番多いのはもちろん、師匠の木原厩舎。3326戦中で467鞍で手綱を取っている。続くのが武英厩舎で333鞍。そして、3番目が河内厩舎で94戦となる。元ジョッキーの厩舎が多く依頼をしている。

 武英師はセリで渡米中。不在だったため、河内師に依頼の理由を聞いてみた。

「まずは重賞、おめでとうやな。真面目な性格で毎回、一生懸命に乗ってくれるんだよな。着順の厳しい馬でも尻を上げずに最後まで追ってくる。馬にとっては諦めさせないことも次につながるから、大事なことなんだ。頼みたくなるやろ」

 こう返ってきた。

 開業3年目となる四位厩舎も富田への依頼は多い。先週までの553戦で最も多い59鞍。岩田望(38戦)、福永(引退・35戦)、藤岡佑(33戦)と続く。四位師自ら、身振り手振りでアドバイスする姿はよく見る。こう話してくれた。

「技術的にはまだまだ。でも、暁は格好よく乗るし、勝つ時は鮮やか。先週の特別3連勝なんて狙ってできるものじゃないからね。思い切って乗って、重賞を勝てたということが自信となるんじゃないかな」

 そして、第一歩を踏み出した後輩騎手に対して、ふたりのダービージョッキーはこんな言葉を残してくれた。

「人気薄で勝つことはあるけど、人気馬で勝つのは難しい。相手を見つつ競馬せんといかんからな。騎手として、ずる賢さ、狡猾さは必要になるわな。相手を苦しくさせるような競馬をせんとな」(河内師)

「真面目だし、同期の武史(横山武史)が活躍しているというのもあるから、人気馬に乗ると考えてしまう面はまだあるかな。重賞勝ちはひとつのいい経験。性格的に慎重になりがちだから大胆であってもいい。いい馬のと出会いもあれば、競馬への考え方もバリエーションが増えるはず」(四位師)

 騎手は勝ってこそが恩返し。1勝は依頼する側、される側には大切なのだ。名手のふたりは最後に「いい経験をすることは大切。この経験を生かせるかどうか」と声を揃えた。

 先輩方の金言は、すべての若手騎手に通ずるものかもしれない。

 初の重賞勝ちから、富田がどう羽ばたくか。〝たゆまぬ努力の人〟ならば、またチャンスをものにして「よかったな」と言われる機会は自ずと増えるはずだ。

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