トップ級は年収2億円 競走馬を育てる調教師というお仕事

公開日:2025年3月14日 17:00 更新日:2025年3月14日 17:00

調教師にはどうしたらなれるの?

 以前、厩務員と調教助手の厩舎スタッフのお仕事について解説した。JRAの場合は競馬学校の厩務員課程(6カ月)の教育期間を経て、厩舎に就職。待遇は基本給に夏冬のボーナス、各種手当、退職金ありと会社員と変わらない。今回はそんな彼らを束ねる「調教師」について調べてみた。

 現在、JRAの調教師は栗東トレセンに93人、美浦トレセンに99人。合わせても192人しかいない。地方競馬もすべて合わせて417人(ほかに調教師補佐が48人)という少数精鋭。日本広しといえども600人ほどしかいない。

 調教師は厩舎の社長であり、競走馬の預託、調教及び管理、厩舎スタッフの労務管理、騎手の育成などの業務を担う。免許は、競馬法と競馬法施行規則で定められた国家資格(調教師免許)を持つ者のみに与えられ、禁錮以上に処せられた人や、馬主の人はなれない。試験自体は一般の人も排除していないが、騎手や厩舎スタッフの人たちが資格取得するケースが一般的である。定年は70歳だ。

司法試験並みの難関をくぐり抜けるには?

 国家資格である2025年度の調教師免許試験は、受験者数125人に対し、1次試験合格者が23人、2次試験をくぐり抜け晴れて免許を取得した人はたったの9人しかいなかった。競争倍率は約14倍という狭き門。弁護士並み、あるいはそれ以上の難関資格で、10回以上試験を受け続けている人もザラ。

 実際、25年度の合格者である室井潔氏(49)は18度目の挑戦で合格。柴田卓氏(44)は13度目、松尾卓哉氏(43)は11度目、井上智史氏(43)と平岩大典氏(41)は10度目で念願がかなった。

 祖父と父が元調教師という橋田宜長氏(36)は早稲田大学政経卒の高学歴者だが、それでも合格まで5度を要した。加藤公太氏(52)は6度目、秋本大介氏(43)は4度目、最も早い手塚貴徳氏(32)でも3度かかっている。

 ちなみに、昨年、中央競馬史上初の女性調教師となった前川恭子氏(47=筑波大卒)は5度目の挑戦だった。

「毎年、受験者数は公表しておりますが、男女別の数は発表しておりません」(JRA広報部)

 合格したらすぐに開業できるわけではなく、馬房の空きが出れば晴れて経営調教師として開業の運びとなる。それまでは技術調教師と呼ばれる。

試験はどんな内容? 合格ラインは?

 中央・地方ともに28歳以上で受験資格が与えられ、試験は学力と技術に関する筆記の1次、面接の2次がある。

 JRAの試験内容はどうか。1次の筆記は「競馬関係法規に関する専門的知識及び労働関係基本法規に関する一般的知識」(100点)、「調教に関する専門的知識」(100点)、「馬学、衛生学、運動生理学、装蹄、飼養管理及び競馬に関する専門的知識」(100点)の300点満点で採点。各項目1時間しかなく、圧倒的に時間が足りないと語る受験者が多い。例えば、「馬の疝痛6種類とその特徴について記述せよ」といった設問。答えは、〈過食疝〉〈便秘疝〉〈風気疝〉〈変位疝〉〈痙攣疝〉〈寄生疝〉で、臨床症状や看護方法、予防法、治療ポイントを簡潔に記述する必要がある。また、X線写真を見て病名を答える超難解な問題もあった。

 合格するためには3科目でおおむね180点以上が必要。ただし、1科目でも40点未満だった場合はペケになる。

 2次の口頭試験はさらに難関。競馬関係法規や経営管理に関する質問に対し、口頭で意見を述べなくてはいけない。丸暗記の生半可な知識では太刀打ちできない。その際、人物考査も行われる。

開業後の収入はどれくらい?

 馬主から受け取る馬の「預託料」は調教助手や厩務員らスタッフの給与に回り、調教師の収入は純粋にレースの「進上金」だけ。進上金とはJRAのレース賞金から受け取る成功報酬のことで、内訳は馬主が80%、厩務員と騎手がそれぞれ5%、残りの10%が調教師の取り分となる。

 JRA最高峰のジャパンカップと有馬記念の1着賞金は5億円。その10%なら5000万円と夢はあるが、誰もがその恩恵にあずかれるわけではない。むしろ、JRAから貸与される厩舎設備の家賃、その水道光熱費なども自腹で賄わなくてはいけない。中央競馬では平均して1人の調教師が20頭の馬房を借り入れ、12人前後の厩舎スタッフを雇用している。

 22年に52歳で騎手から調教師に転じた蛯名正義氏も、初年度の収入は「ジョッキーとしてデビューした35年前とほぼ同じ」という厳しさだったと振り返っている。

 24年の最多賞金獲得調教師は友道康夫氏(栗東)の23億5624万円。その10%なら年収2億円超え。ちなみに、友道調教師の生涯賞金獲得額は軽く200億円を超えている。

外国人の「先生」はいつ誕生するのか?

 難関資格を突破した調教師は「〇〇先生」と呼称される。新聞表記上は「〇〇師」だ。日本調教師会の中竹和也会長なら「中竹先生」「中竹師」となる。現在、JRAには外国人厩務員はいないが、地方競馬は多国籍化が進んでいる。主に人手不足が理由だ。

 地方競馬全国協会の集計によれば、厩務員全体に占める外国人の割合は19年の9・04%から23年は11・4%に増加。インド、フィリピン、ドミニカ共和国、南アフリカなど全世界にのぼり、外国人厩務員の存在は大きな労働資源となっている。社会保険制度や住居の整備が急務で、笠松競馬では外国人厩務員と騎乗員を対象に「日本語教室」を開催したりしている。

 彼らの在留資格は「技能/5号」(技能実習生とは異なる)で、動物の調教に係る技能について10年以上の実務経験(外国の教育機関において動物の調教に係る科目を専攻した期間を含む)に与えられる。

 近い将来、厩務員から調教師に転身する外国人が現れそう。「レオン先生」「アミル師」と呼ぶ時代が来る。

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