馬券のうち25%の控除分はどこへ行く?

公開日:2025年1月10日 17:00 更新日:2025年1月10日 17:00

JRAの年間開催経費はどれくらい?

 日本人が大好きな競馬などの大衆娯楽。とはいえ、負けが込んでいるだろう人の口からは「期待値マイナス」「回収率75%」といった言葉が漏れてくる。回収率とは購入した馬券のリターンの割合を指すが、そもそも馬券の金額から控除された分はどこに行っているのか?

 2024年の日本中央競馬会(JRA)の売り上げは約3兆3135億円(売得金)。13年連続の増加となった。この3兆円を超えるお金はどこにどう配分されているのか。

 中央競馬における勝馬投票券は投票の種類によって異なるが、約75%が払戻金に充てられ、残りの約25%は国庫納付金とJRAの運営に回される。

 例えば、100円の勝馬投票券は約75円が配当となり、残り約25円のうち10円が国庫へ(第1国庫納付金)、約15円がJRAといった割合。各年度においてJRAに利益が生じた場合は、その額の2分の1がさらに国庫に納付される(第2国庫納付金)。

 少し話が難しくなってしまったが、具体的に言うと23年度は約3581億円が国庫に納付されている。

「納付されたこの金額は国の一般財源に繰り入れられ、そのうちの4分の3が畜産振興に、4分の1が社会福祉に活用されています」(JRA広報担当者)

 競馬で勝っても負けても、購入した馬券の一部は社会貢献という立派な場所に役立てられているわけだ。

 では、JRAの実入りの方はどうか。同じく23年度の決算報告書を見ると、投票券収入(約4689億円)のほか、入場料等(約39億円)や地方競馬発売業務受託料(約141億円)などを事業収入として計上している。事業外収入も含めこの年の総収入は約4947億円だ。

 もちろん、これがまるまる入ってくるわけではない。競馬をやるにあたって、まずは「開催費」がかかる。これが約939億円。さらにレースの「競馬賞金」が約1078億円など。これらを含め全体で約4368億円の経費がかかった。

能登半島地震の被災地支援にも使われる

 さて、これまではJRAのざっくりとした収益の話だが、先ほど説明した国庫納付金とは別にJRAは「畜産振興」「環境」「被災地支援」にも交付金を支給している。

 例えば、昨年の畜産振興事業では日本獣医生命科学大学などに「国産チーズ・ブランド化事業」として約5389万円(2年間)を交付。被災地支援では競馬ファンからの募金も含め「能登半島地震被災地」への支援金として計5515万円ほどを寄付している。

 一方、馬主らでつくる「中央競馬馬主社会福祉財団」も独自の寄付活動を行っており、23年は393件で5億5091万円、これまでの累計で2万9790件、1229億円に達している。

 寄付先と使い道はより細かく、北海道にあるグループホームにはエアコン設置費用として45万円を寄付。近年の気温上昇で北海道でもエアコンは必需品になっていることがわかる。さらに福島県の認定こども園に園庭遊具として158万円、千葉県の特養老人ホームに全自動洗濯脱水機代として160万円といった具合だ。

地方競馬はどれくらい儲かっているの?

 では、地方自治体が運営する「地方競馬」はどうか? 帯広や船橋、川崎、名古屋や佐賀など12都道県に15場の地方競馬場があり、レースの売り上げから約75%は払戻金に充てられ、残り約25%がレース主催者(自治体など)に入るのは中央競馬の仕組みと一緒だ。

 地方競馬の23年度の売り上げ(売得金)は約1兆889億円(前年度比1・7%増)で、過去最高を記録。最も多いのが大井競馬場の約2071億円で、反対に最も少ないのは姫路の約202億円だった。

 自治体はどれくらい潤うのか。22年度は主催者収益金が約202億円で、地域の学校等施設、防災対策、一般土木などに使われている。例えば大井競馬場は東京23区に1区あたり6億円の計138億円を分配。船橋競馬場はこの年の売り上げは947億円で、千葉県と船橋市、習志野市に合わせて10・4億円の分配金を出している(比率は県が13分の8、船橋市が13分の3、習志野市が13分の2)。

 ちなみに、船橋市は中央競馬の中山競馬場も持っており、JRAから「環境整備」として交付金も入ってくる。

 さらに地方競馬全国協会交付金が約148億円で、地域の畜産振興や調教師・騎手の育成などに使われる。

 また、公営競技納付金が約42億円。これは地方公共団体金融機構に入る。

「公営競技納付金は、地方公共団体が行う公営競技の収益の平均化を図ることを目的としています。簡単に言うと、競馬場のない自治体でも恩恵を受けられるようにするもので、公営住宅や水道、病院などをつくる際(一般会計債)の貸付利率の引き下げの財源となります」(地方公共団体金融機構・企画課担当者)

高知競馬場の廃止を救った馬は?

 全15場で売り上げ1兆円を超える地方競馬だが、決して順風満帆だったわけではない。

「地方競馬はどこも長らく赤字が続き、船橋競馬場が25年ぶりに分配金を出したのは2017年。名古屋競馬の分配金も3年前に29年ぶりです。潮目が変わったのは馬券のネット購入で、近年は各競馬場で改修が行われ、家族連れの誘致も積極的に行われています。ナイター開催という努力もありました。特に高知競馬場は景気低迷などから年々売り上げが減少し、厳しい経営から廃止の動きもあった。03年に新たな赤字を出さないことを条件として廃止こそ免れましたが、その年に高知競馬場の職員が打ち出したのがハルウララでした」(ジャーナリスト・中森勇人氏)

 負けても負けても走り続けるハルウララは「負け組の星」として人気になり、翌年、高知競馬場の売り上げは約83・9億円にまでアップ。ブームが去って一時的に売り上げは落ちたが、22年度は995億円へと伸び、1000億円の大台も見えてきた。そのハルウララは千葉県御宿町の牧場で「うーちゃん」の名で余生を過ごしているという。

 競馬の“負け額”も、社会貢献に役立っていると思えば少しは留飲が下がるというもの。他の人より税金を多く払っていると胸を張ってもいい。

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