難関の調教師試験に一発で合格した騎手・秋山真一郎 ジョッキー生活は残りひと月に
公開日:2024年2月1日 14:00 更新日:2024年2月1日 14:00
ニトリで学習机、椅子の購入、組み立てが試験への出発点
惜しまれながらムチを置く──。
昨年の12月7日、午前10時に発表された2024年度「新規調教師免許試験合格者」に名があった騎手の秋山真一郎だ。
調教師試験は、筆記試験の一次、口頭試験の二次で行われる。132名の受験者から最終的な合格者は9名。その中に秋山真がいた。しかも、一発合格。騎手と〝受験生〟を両立させてのものだから、関係者は皆、感嘆すると同時に、賛辞の言葉を送った。
一次試験は、記憶力と筆記の速力勝負。
「競馬関係法規に関する専門的知識及び労働関係基本法規に関する一般的知識」「調教に関する専門的知識」「馬学、衛生学、運動生理学、装蹄、飼養管理及び競馬に関する専門的知識」
3部門を3時間半で行う。ある現役調教師は「手を止めたらダメ。書き続けること。10分のところを5分で書くくらい書くスピードが求められるから大変だったね」と振り返る。
これをレース騎乗と両立させて受験勉強に励んできた。この第一関門にどう挑んだのか。まずは、勉強する環境を整えることからスタートしたという。
「まずはニトリですよ。学習机、椅子と買うことから始まりました。今まで必要なかったですからね。自分で組み立てましたよ」
秋山真は笑いながら出発点を振り返った。ここからは世の〝受験生〟と同じ。試験当日まで勉学にはげんだ。
「勉強はしたことないですからね。毎日、覚えては忘れ、覚えては忘れ。それの繰り返しです。速く書くための練習も相当しましたよ。最初のうちはレースが終わった日曜晩にお酒を飲み、それが少々、過ぎてしまって翌日の半日を棒に振ったこともありました。それもあり、申し訳ないことですが、少しずつお誘いも断って」
ただし、騎手という職業は馬に騎乗するのみでなく、多くの馬に接し、馬名、血統やレースぶりにクセなどの特徴を覚えるもの。これを自身の感覚とフィットさせてレースへ挑む。もちろん、馬主、生産者に厩舎スタッフとの会話も。半端な記憶力でできるものではない。
「幸い、自分は騎手なので、調教が終わればフリータイム。他の人よりも時間をつくることはできたと思います。週末の競馬前は調整ルームが勉強部屋。乗り鞍も多くないので勉強する時間はあったと思います(笑)」
若手の頃から努力を人に見せるタイプでないことは多くの騎手が証言する。これは謙遜だろう。
「使っていくうちにペン、消しゴムと自分の好みの筆記用具が出てくるんですよね。消しゴムはMONO(トンボ鉛筆)で、一番消しやすかった。ペンは濃い色。気に入ったもので勉強していきました。元騎手の調教師さんも親身になって教えて下さった。本当にありがたいことでした」
結果、一度目の受験で〝サクラサク〟に。どんなスタイルの調教師となるのだろうか。
騎乗スタイルは「いかにマイナス部分を減らせるか」
「でも、ここからですよね。後輩騎手からは〝調教師になっても変わらない秋山さんでいて下さい〟と言われています(笑)」
肩書が調教師に変わるのは3月1日から。2月いっぱいまではジョッキーだ。感謝や惜別の意を込めて、多くの騎乗依頼が舞い込むはずだ。
「競馬に乗れなくなるのはつらいですね。やはりジョッキーなので。最後までひと鞍、ひと鞍を楽しみたいと思っています」
こう話す秋山真に28年間続け、1000勝ジョッキーとしての持論を聞いてみた。
「競馬は騎手が乗る時点で重量も増え、馬にとっては負担となる。プラスになることはそうないですからね。仕事としてできることは、いかにマイナス部分を減らせるだと思っています、今でも」
馬の邪魔をしない。それが最大限に能力を引き出す術。騎手・秋山真一郎を見ることができるのは、あとひと月間しかない。かつてR・ムーアが褒めたという鞍はまりのよさ、手綱さばきを存分に堪能できるのも今月末までとなる。あっという間に〝先生〟だ。
ひと鞍でも多く騎乗し、1つでも多く勝ってファンが待つウイナーズサークルにその姿を見せてほしいと願うばかりである。