【人生100年時代の歩き方】おもしろ馬名の名付け親 小田切有一オーナー直撃

公開日:2025年5月30日 17:00 更新日:2025年5月31日 15:31

馬の名前にはどのような基準があるのか

「オジサンオジサン」「ドングリ」「カゼニフカレテ」に込められた深い意味

 いよいよ6月1日に迫った日本ダービー。フランス語で北十字星という意味の「クロワデュノール」、NYマンハッタンの通りの名から取った「ミュージアムマイル」。名は体を表すと言うが、どの馬も名前から強さが伝わってくる。そんな中、クセの強い名前の馬も気になる。

 タレントの平野ノラさんの今回の本命馬は「マスカレードボール」。TRFの1995年のヒット曲「masquerade」からの連想のようだ。

 馬名の響きや字ヅラで馬券を選ぶのは女性に多いような気もするが、マスカレードボールは今回の注目馬の一頭。ちなみに、英語で仮面舞踏会という意味だ。他にも「ショウヘイ」という名前の馬が妙に気になる。

 競走馬でなくとも名前は大事。かつては「バカニシナイデヨ」「ナンデヤネン」といったユニーク名もあったが、馬名はどのようにして付けられるのか?

 馬名を審査しているのは「ジャパン・スタッドブック・インターナショナル」(JAIRS)という公益財団法人。申請は第3希望まで受け付けており、片仮名2~9文字、かつ国際的な枠組みであるパリ協約に基づいてアルファベット18文字以内という規定がある。さらに同名や紛らわしい名前、公序良俗に反していたり、営利目的だったりするものは認められない。

 高知競馬場を主戦場とした「センテンスプリング」は、おそらく不倫芸能人のセンテンススプリング(文春)からのインスピレーションだろうが、10文字と字数がオーバーしてしまったため、センテンスとスプリングの「ス」が1個除かれている。

 流行からの命名も多い。「ソンナノカンケーネ」は流行語にもなった小島よしおのギャグ。「ゴイゴイスー」もお笑いコンビ・ダイアンの津田の決めポーズだ。「サンバンナガシマ」「ヨバンマツイ」は同じ馬主さんの命名。聞くまでもないが、根っからの巨人ファンだろう。

 少し前には「オバサンオバサン」という名前の馬もいた。オバサンがいればオジサンだっているだろうと探してみたら、やっぱりあった! 通算1勝と目立った活躍こそできなかったが、おもしろ馬名界隈ではダービー馬級の人気馬である「オジサンオジサン」だ。ただし、この2頭の馬主はまったく違う人物というのも興味深い。

 もうひとつ、「マジックミラー」という馬も。競走馬は「〇〇号」と呼ばれるが、「マジックミラー」に号を付けると……、これは分かる人だけに分かる。

ファンの印象に残る名前は馬主の務め

 こんな個性的すぎるネーミングの元祖と呼ばれているのが、九州馬主協会会長の小田切有一さん(82)だ。小田切さんは先ほどの「オジサンオジサン」のほか、「モチ」「タコ」「ドングリ」「ワシャモノタリン」「ウナギノボリ」「モシモシ」「ヒコーキグモ」などの珍馬名を多数輩出。一方、「オレハマッテルゼ」でGI高松宮記念(2006年)を制したオーナーでもある。単なる思いつき? それともウケ狙いなのか。思い切って意図を聞いてみた。

  ――珍馬名に何か意図はあるのですか?
「馬主になってかれこれ50年になりますが、最初の頃はごく普通に名前を付けていたのです。転機となったのは『マリージョーイ』という馬です。調教師の息子さんが結婚することになり、結婚=マリッジから名付けてみたのですが、ある日、理髪店で何げなしにラジオに耳を傾けていたら、『彼氏に連れられて競馬場に行ったらマリージョーイという可愛い馬がいて、それから競馬にハマった』という若い女性の話が紹介されていた。そうか! ファンの印象に残る名前を付けるのも馬主の務めなんだと思ったわけです。マリージョーイは騎乗した福永洋一さんが79年の毎日杯で落馬し、大けがをした。懸命な治療で命は助かりましたが、福永さんの最後の騎乗馬に。思い出の深い馬です」

  ――マリージョーイは響きもいいのですが、さすがに「モチ」「タコ」「ドングリ」はやり過ぎでは?
「決してふざけているわけではなく、自分の中では『平和』や『自然』『郷愁』といったジャンル分けをしています。『カゼニフカレテ』という馬名は、ボブ・ディランの『風に吹かれて』から取っていて、平和の願いが込められています。『ドングリ』はどんぐりを通じて森林保護を訴えていた永六輔さんの活動に感銘を受けて名付けました。ところが、『農産物の名はダメ』と3年間申請を却下され続けまして、『どんぐりは農産物ではなく、木の実の総称です』と説明してようやく認められました(笑)」

  ――ひとつひとつの名に思い入れがあったわけですね。では、「オジサンオジサン」は?
「これは僕ら熟年世代へのエールです。この年になっても頑張ろうという思いからです」

  ――でも、「キョカキョク」という馬名は早口言葉の「東京特許許可局」からですよね?
「ハハハ、分かりましたか? 実況アナウンサーさんを少し困らせてみようというちょっとしたいたずら心です。皆さんにクスッと笑ってもらおうかと。さすがに『ニバンテ』は実況を混乱させるとして馬名申請を却下されましたが……」

人を不快にさせるような命名は決してしない

  ――どれも個性的な名前ばかりですが、歴代の馬名を見ていると、エロチックや人を不快にさせるような名はありませんね?
「よくぞ聞いてくれました。私の中では楽しんでもらえるのが第一で、日本語で容易に分かる名前という基準で付けています。ただ、うちの家内にはいつも『恥ずかしいからやめて』と叱られています」

  ――これからも珍馬名を続けていきますか?
「私もこの年ですから少しずつ所有馬を減らしている段階です。ファンにはもっと競馬を楽しんでもらいたいですね」

 小田切さんはやさしい口調でこう締めくくってくれた。

 馬名は馬主の思いと共に世相や流行も反映される。そんな中、最近になって「ワタシデイイデスカ」「ウヌボレヤサン」「セッカチドラゴン」「ニャンダコレ」と名付けたニューウエーブの女性馬主さんが現れている。

 小田切さんの思いを受け継ぐ命名がこれからも続いていって欲しい。

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