あの馬は今こうしている

19年クイーンS覇者ミッキーチャーム 三嶋牧場繁殖担当者を直撃

公開日:2024年7月26日 17:00 更新日:2024年7月26日 17:00

「午前11時から4月生まれの当歳と昼夜放牧に出ています」

 札幌開幕を彩るGⅢクイーンSは元々、GⅠエリザベス女王杯のトライアルレースとして中山競馬場を中心に行われていた。それが札幌に移設されたのは2000年で、歴代勝ち馬には、アエロリットやディアドラなどGⅠで実績を残した馬も目立つ。19年の覇者ミッキーチャームはGⅠタイトルこそあと一歩で逃したが、GⅡ阪神牝馬Sを含む重賞2勝。いまは生まれ故郷三嶋牧場で繁殖牝馬として第二の馬生を歩んでいる。どうしているのか。繁殖担当者に話を聞いた。



 19年のクイーンSを勝ってからは当初、秋のGⅡ府中牝馬SをステップにGⅠエリザベス女王杯を目標にされたが、体調が思うように回復せず、その年は休養に充てられたまま、翌20年1月22日に競走馬登録が抹消されて引退。三嶋牧場で繁殖牝馬になった。体調はどうなのか。
「僕は去年からチャームの担当を引き継いだんですが、4番仔まで産んでいるからね。仔出しがよくて、子供の面倒もよくみる。立派な繁殖牝馬。体調もすこぶるいいですよ」

 父ロードカナロアとの間に生まれた1番仔の牝馬ミッキースピネルは今月13日の函館戦でデビュー。芝千八の未勝利戦で既走馬相手に前半は後方に構えると、3角から徐々に進出して持ったままで直線に向き、ノーステッキで先頭ゴールイン。奥がありそうな勝ちっぷりが目を引いた。

「チャームも4戦目の函館で勝ち上がっているから、スピネルも洋芝が合うんだろうね。それにしても強かった。スピードタイプのお母さんとはタイプが違うけど、あのレースぶりなら上のクラスもすぐに勝てそうだし、これからも楽しみです」 2番仔ミッキージュエリーはエピファネイア産駒で、3番仔と4番仔はともにサートゥルナーリア産駒。これまでに生まれた4世代はいずれも牝馬だ。

「当歳は4月9日に53キロで生まれて、いまは180キロほどにすくすく成長しています」

今年はミッキーロケットを種付けしました

 これまで種付けも出産もスムーズだという。

「ディープインパクトの血を引く繁殖牝馬はとにかく馬格が大事で、小さい馬だと難産になりやすい。その点、チャームはしっかりとした大きさがあるので、出産もホント順調です。これくらいの繁殖牝馬になると、病気はほとんどしなくなるので、気をつけないといけないのは産後と腸捻転などですが、いまのところすこぶる健康です。心配なところは何もありません。今年は、ミッキーロケット(父キングカメハメハ)を種付けしました。来年、どんな仔が生まれてくるか楽しみですね」

 一般に繁殖牝馬は出産、そして次世代の仔の種付けを終えると、生まれたばかりの当歳馬の世話をしながら放牧地を走り回る。

「チャームは6、7頭の繁殖牝馬のグループにいて、5月中旬からはそれぞれの子供たちとともに午前11時から昼夜放牧に出ています。当歳馬にとっては同い年の仲間とのコミュニケーションを身につけたり、お母さんたちからしつけられたりしながら、社会性を身につける。寝ずに走り回るから、当歳馬にはかなりきつくて翌朝、戻ってくると、かなり疲れていますからね。チャームは人に厳しいところがあって、当歳も生まれたころは人見知りでした。でも、夜間放牧で疲れたときは私たちを気にしている余裕がないので、手当てなどがしやすい。その繰り返しで人見知りも少しずつ改善され、人との関係もスムーズです」

 当歳馬が社会性を身につけ、サラブレッドとしての基礎体力をつけるには、母馬との夜間放牧が不可欠ということだ。

「もちろん、当歳馬や母馬が疲労をためたり、様子がおかしかったりしたら、きちんとチェックして休ませます。毎日の馬体チェックはとても重要です。丈夫な子供を育てようとして故障させてしまっては、元も子もありませんからね」

 さて、チャームはデビュー4戦目で馬体重を22キロ増やして成長曲線に乗り、勝ちあがると、現在の1勝クラスと2勝クラスも連勝。3冠最終戦・秋華賞に駒を進めた。

アーモンドアイを最後まで苦しめた秋華賞

 その年の1番人気はダントツでアーモンドアイだ。桜花賞とオークスを危なげない勝利で2冠を制し、3冠に王手をかけていた。GⅠ阪神JF馬で春2冠は②③着に善戦したラッキーライラックが2番人気で、前哨戦のGⅡローズSを勝ったカンタービレが3番人気だった。実績馬が人気を集める中、夏の上がり馬チャームは5番人気でゲートが開く。

「ハナを奪って先頭で直線を向いたとき、アーモンドアイははるか後ろ。正直、『やった!』と思いました。でも、結果はご存じの通りでアーモンドアイの3冠達成。1馬身半差でチャームが②着です。怪物さえいなければ、ね。③着カンタービレも、ウチの生産馬だからワン・ツーだったんですよ。ウチの馬がGⅠを勝てそうなときには、決まって怪物がいるんですよね」

 19年のクラシック戦線では、生産馬のダノンキングリーがGⅢ共同通信杯でGⅠ朝日杯FS馬のアドマイヤマーズを撃破し、クラシック路線でも人気を集める。が、GⅠ皐月賞ではサートゥルナーリアの③着に敗れ、雪辱を狙ったGⅠダービーでは、ロジャーバローズの首差②着と涙をのんだ。あと一歩のところでGⅠタイトルを阻まれるのはかなり悔しいが、3冠牝馬を最後の最後まで苦しめたことでチャームの実力の高さも、ファンや関係者に強く知らしめた一戦だった。

 その後は翌19年、GⅡ阪神牝馬Sで初の重賞をゲットすると、GⅠヴィクトリアMに挑むも⑧着に沈み、夏は札幌に矛先を向け、GⅢクイーンSで2つ目の重賞をモノにした。結果的にこれが引退レースとなる。

「この馬とは縁がありまして、あのクイーンSのときは札幌競馬場で観戦していたんです。目の前で勝ってくれたのはうれしかったんですが、半袖半ズボンという軽装で……。口取り写真は諦めていたら、中内田先生が『おいでよ』と声をかけてくれたんです。ホント、うれしかったですね」

 引退レースを思い浮かべながら、改めてこう言った。

「チャームの母リップルスメイドも馬体を目にしたことがあって、母はゴロンとしていて見栄えしないタイプ。チャームは馬体がよく、そのよさが産駒にも受け継がれています。この先もどんどんいい仔を出してほしいですね」

 チャームが果たせなかったGⅠ獲得の夢は仔に託された。産駒の活躍に注目だ。

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