「今年はコントレイルを配合。受胎も確認できましたから、来年生まれてくる仔馬が楽しみです」
GⅢ北九州記念は、函館スプリントSに続くサマースプリントシリーズ第2戦に位置づけられ、秋の大一番GⅠスプリンターズSの前哨戦でもある。そんな2021年のレースで雨が降る中、大外から突き抜けたのが、熊本産馬のヨカヨカだった。熊本産としては初めてのJRA重賞制覇だ。この重賞勝利で次走はスプリンターズSが目標になったが、左第1指節種子骨の骨折で引退。その後は、オーナーの岡浩二氏が所有する牧場サンデーヒルズで繁殖牝馬になっている。いまどうしているのか。
「ヨカヨカは、現役時代と同様に母としても繁殖牝馬としても優秀です。お産は初仔のときから苦労せず、生まれてきた仔馬も周りのスタッフもしっかりと受け入れることができていて、とても賢い。仔馬と接するときの母性もちょうどよく、満点ですね」
こう言うのは、サンデーヒルズのオーナー岡浩二さんだ。岡オーナーに詳しく聞いた。
ヨカヨカは22年からキズナ、コントレイル、イクイノックスとトップクラスの種牡馬を種付けして、すべて受胎。いずれも元気な牡馬が生まれている。初仔のキズナ産駒は、母の名前からヨカオウと名づけられ、母と同じく栗東の谷潔厩舎に所属。今年、デビューする予定だが、産駒の様子はどうなのか。
「産駒はそれぞれの種馬のよさを受け継いでいる印象です。もちろん、それぞれの個性もあって違いはありますが、いい馬ばかり。ヨカヨカはしっかりと受胎して、受胎率もいい。この点でも優秀ですね」
今年はどんな種牡馬を配合したのか。
「コントレイルです。受胎も確認できましたから来年生まれてくる仔馬が楽しみです」
これまでに配合された種牡馬のラインアップは、そうそうたる顔ぶれだ。競馬ファンとしても産駒の活躍が楽しみだろう。
放牧地ではどう過ごしているのか。
「7月になって北海道も暑くなってきたので、放牧は夜間で16時間ほどです。マイペースで仔馬と走ったり、青草を食べたりしています。時々、スイッチが入ると、全力で走るんですよ。そのときのフォームはとてもキレイで、現役時代を思い出します。ハイ、いまはケガもなく、ほんと元気ですし、健康な仔馬を毎年産んでくれる、素晴らしい繁殖牝馬です」
馬房でも基本はマイペースでのんびりしているそうだ。
20年JRAブリーズアップセールでほれ込んで
さて、ヨカヨカが生まれたのは2018年5月13日。熊本の本田土寿牧場で産声をあげた。デインヒルダンサーの血を引く母ハニーダンサーに父スクワートルスクワートを配合した牝馬だ。筋肉豊富で重戦車のような母に俊敏な父の血をかけ合わせることで軽快なスピードを求めたところ、その狙い通りに育っていった。そんな動きのよさにほれ込んだのが、岡オーナーだった。
「19年の九州1歳セリに上場されたヨカヨカを見ていて、馬体や脚の運びのよさがとても印象に残っていました。そして20年のJRAブリーズアップセールに上場されると、動きは一段と良くなっていて、馬体もすばらしく成長。それでヨカヨカにほれ込んで、競り落としたのです」
九州産馬は、北海道のセリに出されるケースもあるが、主に6月に開かれる九州1歳市場で取引される。そこでJRAに落札されると、JRA宮崎育成牧場に移動して育成が行われ、2歳になると、JRA育成馬としてブリーズアップセールに出される。ヨカヨカはそんな1頭で、岡オーナーは九州1歳セリからヨカヨカを追いかけていたということだろう。
その動きのよさを示したのが、ブリーズアップセールで宮崎育成牧場で行われた公開調教だ。ヨカヨカがマークした時計は2F23秒0―1F11秒0。1番時計と大きな注目を集める中、1122万円で落札したのが岡オーナーだ。
デビューから3連勝するなど、その後の活躍は〈表〉の通り。2歳戦から結果を残した母の血を受け継ぐ仔馬たちの活躍が楽しみだ。
阪神JFでソダシに0秒4差。GⅠの〝夢〟は仔馬たちに
九州産馬は九州産馬限定の小倉の新馬戦でおろすのが一般的だが、類いまれなスピードを持つ快速牝馬ヨカヨカは限定戦を待たずに6月13日の阪神芝千二がターゲットになる。北海道生まれの良血馬がそろう中、堂々の2番人気で勝ち切ると、そこからひまわり賞まで3連勝を飾った。
賞金を加算して重賞戦線を歩むと、勝ち切れないまでもGⅠ阪神JFでは、白毛の女王ソダシからコンマ4秒差⑤着に善戦。そして3歳時は、GⅠ桜花賞こそ⑰着に沈んだが、GⅡフィリーズRと重賞・葵Sでは②着。初めての古馬を交えたGⅢCBC賞でも⑤着と掲示板を確保した。
重賞でもしっかりと結果を残し、いつタイトルを獲得しても不思議ない中でのGⅢ北九州記念はレースの直前になって雲行きが怪しくなり、大雨が降ってきた。それが、脚の回転が速い根性娘には恵みの雨となった。3番手の外から直線で大外に持ち出されると、ほかの馬がのめって追走に苦労する一方、幸騎手のムチにこたえてキッチリと伸び、先頭ゴールインを果たす。
念願のタイトル獲得が結果的に引退レースとなったが、②着に退けたファストフォースは2年後にGⅠ高松宮記念を制したから、この馬も無事ならGⅠ馬になっていたかもしれない。母が果たせなかった“夢”は仔馬たちに託された。