健坊たちの“張り始め”、中山の「フェアリーS」は哀れハズレとなった。
“迷った時”“困った時”のルメールさんと頼りにしてるルメールの馬が0秒1差の④着。
「頼みまする……」
が、
「何やってんだ!」
になっちまった。
3、4コーナーでシンガリから4、5番手。
「後ろから行き過ぎだヨ……」
のサブのしかめっ面も、さらにその後ろにいた津村明秀のマスクオールウィン(②着)に先着を許しているのだから空しい遠吠えだ。
タラ、レバだが、マスクオールウィンが来なけりゃ、⑬①⑥の3連単で522・4倍。2000円買っているから104万とチョット。
“張り始め”が帯封ゲットの金星となってたハズ。
昔、人気のあったテレビドラマ「奥さまは魔女」のサマンサが麻里姐だったら、ピコピコと口を動かして②着のマスクオールウィンを消してくれただろうに、品川に魔女はいない。
「しゃぁあんめい、取られついでに高いメシでも食うか……文治から電話が入って、トラフグのいいのが入ったらしい。白子もかなり大きいってヨ」
とサブと赤シャツを誘って「呑舟」へ。
七転八倒していた去年の秋口は、呑み食い全て赤シャツ頼りの情けない状況が続いていたが、銭さえあれば恰好つけたがるのが健坊のいいところで、
“あたりきしゃりきくるまひき”
黙ってついてこいってわけだ。
“てっさ”“白子焼き”“チリ”に“雑炊”とフルコース。
ビール8本、ヒレ酒4合と、たらふく食って呑んで勘定は文治が少し遠慮して5万と7000円。
「旨かった……釣りはイラネエヨ……」
と6万渡し、
「馬券代に比べりゃ、屁みてえなモンよ」
と嘯いた。
「ホープフルS」があった12月28日が仕事納め。
仕事始めが“松”もとれた1月9日とフツーの会社じゃ、ちょっとありえない留公の会社。
それでも儲かっているからこそなんだろう。
競馬の前の日だ。
陽子欠席で磨呂ちゃん、シャンパン仲間がひとり減って少し寂しそう。オールマイティーで何でも呑める大西が付き合うことになる。
木曜日あたりまで、
「2週間近く休んでいたんで、体が鈍ってしまったのか怠くて怠くて……」
と泣きが入っていたサブもようやく元に戻ったのか、赤シャツとバリバリ呑んでる。
年明けの先週、顔を見せなかったボン助が姿を見せ、マスターを手伝っている。
先週、陽子との“姫始め”を完了している健坊は、留公相手に注いだり注がれたりで、5、6合はいきそうなペースで熱燗を呑んでる。
大西が専門紙をカウンターに広げたのが9時少し過ぎ。
「中山が3歳のGⅢ『京成杯』で、京都がGⅡの『日経新春杯』でオールドファンには懐かしいテンポイントが骨折、競走中止したレースです。どちらにします?」
と伺いを立てた。
「いつもなら格を重視してGⅡの『日経新春杯』なんだろうが、先週、期待を裏切ったルメールに貸しを返してもらおうじゃんで、『京成杯』にしないか……新馬を勝ったばかりで1戦しかしていない②バードウォッチャーなんだが、おっ母サンがGⅠを含めて7勝しているアパパネで、父親がキタサンブラックと同じブラックタイド。超大物になりそうな予感がするんだ。軸マルチで相手も⑥アーバンシック、⑧ハヤテノフクノスケ、⑪マイネルフランツ、⑮ジュンゴールドの4頭36点に5000円ずつと思っているんだが……」
と健坊。
どうかね? と横に座ってる留公の顔を覗き込んだ。
「ウーン……」
と言いながら「京成杯」のメンバーをじっくり観ていた留公。
「健ニィがそれほどルメールのバードウォッチャーに気があるんなら、相手4頭の3連単もいいんだが、俺は相手は2戦2勝の横山武史の⑥アーバンシックと坂井瑠星の⑮ジュンゴールドの2頭でいいって気がする。②⑥⑮の3連複1点に10万か20万買いたいな」
と留公。
これには言い出しっぺの健坊もたじたじ。
「それも悪かぁねえけど……」
と少し口籠ったが、
「ヨシ! ルメールを信じて、マルチの3連単36点に5000円ずつ、②⑥⑮の3連複1点に20万と、正月明けだ、38万勝負と張り込もうじゃねえか……」
大見得切った健坊だ。
確かにお母サンのアパパネは名牝だった。
デビュー戦、道中9番手追走から直一気で差し切ったバードウォッチャーのレースぶりも圧巻だった。
そして、昨年も165勝でリーディングトップだったルメールも信用できる。
でも、38万円。
普通の家族なら1カ月の生活費だ。
あっと言ったがこの世の別れにならぬよう、ただ祈るのみだ。
競馬評論家
1944年東京生まれ。65年、東京スポーツに入社して競馬サークルへ。82年に退社後、ケイシュウニュースを経て86年、週末特別版にて「止まり木ブルース」が連載スタート。北品川で毎週、馬券勝負に挑む健坊の生き様にファンは多い。