〈116〉馬術のカメラマン・カジリョウスケさん(1)

公開日:2025年10月1日 14:01 更新日:2025年10月1日 14:56

「これ、良かったら来てください」。そう手渡されたリーフレットの写真に一瞬に引き込まれた私は、その案内にしたがって8月の終わりにある写真展を訪れました。

「憧憬(しょうけい)」と題されたそれはカジリョウスケさんの個展。お会いしたのはたった一度。「ぜひ行きますね」と応えたものの、社交辞令と受け取られたかもしれないし、挨拶しても〝覚えていてくれてるかな?〟と不安を持ちながら、しばし会場の写真に目をやっていると「きょうはありがとうございます」とにこやかにご挨拶してくれたのは、今回このコーナーにご登場いただいたカジリョウスケさん。ホッとすると同時に、やっぱり来て良かったーとも。リーフレットの写真はもちろん、他も本当に素晴らしいものばかりだったから……。

 小学生の頃、知らないうちに家族に写真を撮られたことがあり、それがとても嫌だったそう。だったら自分が撮る側になればいいんだと家族旅行の時にはカメラを持つようになったそうです。

 また「友達がしていた競馬ゲームや見せてくれた競馬雑誌に影響されて、競馬に興味を持つようになったんです」。ということで、競馬場に行き写真を撮り始めました。

 今残る最も古い写真は小倉記念でのミッキーダンス。「小さくしか写ってなくてブレブレで」。奇麗に写せなかったことに納得がいかず、どうやったら上手く撮れるか、競馬の写真が難しいからこそ、撮ることにのめり込んだといいます。

 きっかけはいつもネガティブな感情ですが、それをポジティブに昇華させて向き合ってきたんだなと感じます。
 
 2009年の春にJRA馬事公苑の馬術大会の撮影に行った時に、JRA職員であり、のちに2021年の東京オリンピック日本代表選手となった北原広之さんを紹介され、交流が始まります。

 これが大きなきっかけとなって、以来さまざな馬術競技場に赴き、カメラを構えるようになります。北原さんとの出会いがどんどん選手との人脈を広げ、写真に変化を与えてくれたのです。

 写真展の際、ちょっとしたギャラリートークがあり、そこでのカジさんの言葉がとても印象に残っています。

「もともと、撮影者と競技エリアは別の世界にあるものだ、という感覚でした。私たち撮影者は競技が行われている世界に介入してはいけない。スポーツ写真とは、自分の存在を消して第三者的な視点で撮るものでなければならないと勝手に思い込んでいたんです」。

 これは我々競馬を取材する側にも言えることで……
(続きは10月8日に更新)

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