土佐黒潮牧場で繋養
「現役時代の厩務員さんが訪ねてきたとき、その姿を目で追っていました」
CBC賞は施行条件や開催時期がコロコロ変わり、昨年から北九州記念とのスライドでサマースプリントシリーズ第4戦に組み込まれている。2010年に京都で行われたこのレースを逃げ切ったのが、ヘッドライナーだ。デビューからしばらくは体質が弱く、ダート路線を歩むが、4歳春の去勢や体質強化もあって勝ち星を重ねると、芝でも活躍。1F長いテレビ愛知OPでハナを奪って②着に粘ると、返す刀で重賞タイトルをモノにした。今、どうしているのか。
ヌレイエフの血を引く母ヘバに父サクラバクシンオーを配合し、2004年5月17日に産声を上げた。体質の弱さで3歳4月に遅れたデビュー戦を快勝。その後は8歳まで現役を続けた。11年には59キロを背負ったテレビ愛知OPで一人旅を決めると、続くCBC賞も②着に粘る。惜しくも連覇は逃したが、長く現役生活を続けた。
39戦8勝。獲得賞金は1億9685万円。ダートでデビューしたことを思えば、決して悪くない成績だろう。引退から13年、余生を送っている場所を探すと、高知にいることが分かった。太平洋に面した須崎市の高台にある土佐黒潮牧場だ。
代表の濱脇由起子さんに聞いた。
「12年に栗東からウチに移動してきて、とっても元気に過ごしています。競走馬としてデビューした当時は体質が弱かったそうですが、今は脚元も内臓もどこも悪いところはありません」
日課は朝の放牧だ。
「朝起きてカイバをあげたら、5時半から放牧します。日中は35度近くになるので、9時に収牧です。放牧地でおやつや青草を食べて、収牧後にシャワーを浴びてサッパリしたら、馬房に戻って昼のカイバを食べます。日差しを避けて扇風機にあたってのんびりしながら、お昼寝です。多少好き嫌いがあって、21歳の年齢的に歯がガタガタしてきたので、乾燥した牧草は柔らかい部分を選んだり、細かく刻んだりして食べやすいようにしています。そのかいがあって、元気でいてくれるのは何よりですね」
昼寝が終わると、軽い運動をしておやつをペロリ。さらに夕方のカイバや寝る前の夜食を含めてご飯は7回に分けているという。
フィールドルージュやトゥインクルなど14頭
ほかにどんな馬がいるのか。
「カンファーベスト(03年朝日チャレンジC、06年関屋記念)、マチカネニホンバレ(09年エルムS)、フィールドルージュ(07年名古屋グランプリ、08年川崎記念)、マンハッタンスカイ(08年福島記念)、オースミダイドウ(06年デイリー杯2歳S)などで、最近預かるようになったのがトゥインクル(16年ダイヤモンドS)です。14ある馬房はすべて埋まっています」
ちなみに放牧地は、1頭ずつ柵で仕切られたパドックタイプで、ヘッドライナーの隣はオースミダイドウだそうだ。
この牧場は、引退した競走馬が余生を送る養老牧場で、亡き父の敬弘さんが1994年に開場した。先代が土地を見つけたときは原野で、自ら土地をならし、厩舎を建てて、馬を集める営業もしたそうだ。
ラガーチャンピオン(93年セントライト記念)やカンファーベストなどが暮らしていることが報じられると、営業をかけずとも馬主さんから、「この馬の余生をぜひ」と相談を受けるようになったという。
父の代から続く地道な活動が実を結び、GⅠ級の馬をはじめ重賞をにぎわせた馬がストレスなく穏やかに暮らす楽園となっている。森があって、海も近い。馬が本来生活する環境に近いから落ち着くのだろうか……。
「高台で風が抜けますから、現役時代の厩務員さんやファンの方がいらっしゃると、口をそろえて『素晴らしいところですね』とおっしゃってくださいます。馬にとっても安心で落ち着ける環境だと思いますが、だからといって、持って生まれた気性まで穏やかになるとは限りません。一頭一頭個性があります。たとえばヘッドライナーは現役時代に去勢されたくらいで時々きついところがあります。一般に種牡馬を経験した牡馬は引退後に去勢してもうるささが残りやすいですが、種牡馬を引退してセン馬になって移動してきたマンハッタンスカイはとてもおとなしい。フィールドルージュは人懐っこいですが、馬には負けん気が強いですね」
それぞれが落ち着いていられるから、ちょっとしたイタズラをする馬もいるのかもしれない。多少のイタズラはあっても、仲よしだという。ちなみにヘッドライナーは、「現役時代の厩務員さんが訪ねてきたとき、その姿を目で追っていた」そうだ。久しぶりの再会を喜んでいたのだろう。
暑い中、濱脇さんもスタッフも、体に気をつけて頑張ってください!