(5月28日分から続く)
「先輩の教官はいますからね。厳しいことは任せて、僕が気がついたことは後で馬の手入れなど作業している時に個人的に伝えるようにしてるんです」。「内田先生、〝もうちょっと厳しくても〟とか、〝やさしいんじゃないですか?〟とか言われるんですけど、生徒は一生懸命やってますからね。なかなか厳しいことは言えないんですよ」。
まさに内田さんの性格そのものが出ている感じですよね。厳しさと寄り添う優しさ。「役割分担でいいんじゃないんですか」と応えた私に、内田さんも「いいですね~。そうします!」とニコッ。相変わらずいい人オーラ全開です。「逃げ道をつくってあげないと八方ふさがりになっちゃいますしね」。
「すごいですよー。今は1日に14000歩くらい歩くんです。騎手の頃は馬に乗っていてもその振動で歩数はカウントされますが、それでも5000歩くらいでした」。未来の騎手への指導は思った以上に体力を使うのかもしれません。
「そんなに疲れないですよ。事務仕事じゃないから、事務ができる人は素晴らしいです」。そしていろいろと気を遣うこともあります。日々の活動の中で、訓練に携わることはもちろん、その騎手候補生と給食をともにする機会もあります。
「開催している競馬場のレースを観ながら食事をするんですが、その時に2,3番手につけた馬について、『この位置が好位なんだよ』と教えたんです。ところがその馬が前を行く馬を差しきれずにたれて負けちゃった。そうなると、決して好位とは言えなくなっちゃいますよね。生徒は混乱しちゃいます。確信めいたことを言えなかったりする。あー、余計なこと言っちゃったなぁ」なんて反省したり」。毎日思考錯誤の日々のようです。
「以前とは教え方が変わっています。ただ、目指しているところは一緒なんです。こちらはプロを育てなければならない。生徒は一生懸命やっているからね」。
「我々の頃は馬同士ぶつけ合って格闘技みたいだった」と振り返ります。
「やられたらやり返すみたいなね。でもそれでは競馬が成立しない。その悔しさをもって、その相手に勝つということを目標にしてやっていました」。
現在の様子をみると例えば競走実習。実際のレースのように騎乗するわけですが、「生徒は他馬との距離がすごく近いと思ってるんです。でも実際には間に2頭分くらいあるんです。もっとくっつけて乗れって言われますけど」。もちろん実際のレースでは本当に馬同士がぶつかったりするくらいの距離の近さで騎乗しています。「でも怖いって思っちゃうのかもしれませんね」。そう私が話すと「やっぱり数をこなさないと。隣の人の鐙(あぶみ)がカチカチあたるくらいの感覚ですね。距離感を覚えるためにね」。長く現役として経験してきた重みはこんなこともサラッと言えてしまえるところもありますね」。
(続きは6月11日に更新)
競馬キャスター
テレビ東京の「土曜競馬中継」などでリポーターを務め、競馬サークルに幅広い人脈をもつ。YouTubeの「日刊ゲンダイ競馬予想」で武田、大谷記者とともに出演。また、毎週水曜には「目黒貴子のアツアツ交遊録」を連載中。