ノーザンファームで繫殖牝馬に
2020年の最優秀短距離馬に輝いたグランアレグリアは、21年の始動戦にGⅠ大阪杯を選択。中距離路線を制圧し、スプリント、マイルに続く3階級制覇を目指すも、雨中の重馬場に苦しめられて④着に沈む。巻き返しの舞台がGⅠヴィクトリアマイルだった。得意のマイル戦は②着に4馬身差をつける圧勝で、初めて古馬の芝マイルGⅠを完全制覇。その年の秋はGⅠ天皇賞③着からGⅠマイルCSで有終の美を飾って引退した。今どうしているのか。
「今年はロードカナロアを種付けしました。無事受胎し、来年の出産が楽しみです」
2歳から5歳まで競走を続けて15戦9勝。そのうちGⅠ6勝で、獲得賞金は10億7381万円に上る。牝馬としては6頭目の10億円ホースだ。マイルCSから約1カ月後の12月18日、中山競馬終了後に引退式が行われ、競馬場に残ったファンからたくさんのエールを送られた。
スペイン語で「大歓声」を意味する牝馬は、馬名そのままの競走生活を送ると、生まれ故郷・北海道のノーザンファームに戻り、繁殖牝馬として第二の馬生を過ごしている。同ファーム空港事務局の杉田佳祐さんに話を聞いた。
「こちらに移動してきた当初は競走生活を引退してから間もないこともあり、少し気が強いところを見せていましたが、今は環境にも慣れて落ち着いています。繁殖牝馬としては種付けも上手で、仔出しもいいですよ。22年からエピファネイア、モーリス、サートゥルナーリアと順番に種付けしてすべて受胎し、立派な仔が生まれています。ちょうど初仔のエピファネイア産駒の牡馬がこちらでの育成を終え、5月8日に天栄に移動したところです」
初仔は491キロ。産駒は馬っぷりがいい
注目の初仔は美浦の名門・木村哲也厩舎に入厩予定で、今後は新潟デビューに向けて調整が進められるという。産駒の特徴はどうなのか。
「繁殖牝馬は元気で丈夫な仔馬を産んでくれるのが一番で、グランアレグリアはまさにその典型です。お産も上手で、生まれた仔馬は成長力があります。初仔は概して小さめですが、平均的なサイズで生まれ、1歳くらいから上にも横にも大きくなってきました。北海道を送り出したときの馬体重は491キロと、馬っぷりがとてもいい。2番仔の牝馬(父モーリス)はやや低めの体高ながら馬体重は平均的で、3番仔の牡馬(父サートゥルナーリア)は体高も馬体重も平均的。お母さんが458キロでデビューしてから506キロで引退したように牝馬にしては馬格に優れるタイプです。その馬っぷりのよさと健康で丈夫な体が、産駒にも受け継がれています」
今年はどの種牡馬を種付けしたのか。
「今年はロードカナロアです。無事に受胎も確認できました。来年、元気な仔を産んでほしいですね」
今はお腹に仔を宿しながら、3番仔である当歳の世話をしている。母としての生活ぶりも気になるだろう。
「グランアレグリアは子供にべったりというわけではなく、ほどよい距離感で接していて、『私が走るから、ついてきたければついてきなさい』といった感じで元気に走り回っています。そうやって走る母を追いかけて仔も走るから、基礎体力が少しずつ養われていくのです。お腹がすいたら、青草を食べる。母が元気であることは、競走馬の成長に欠かせません。その点からも、グランアレグリアは優秀な繁殖牝馬です」
当歳は1月に生まれて4カ月ほど。馬房に戻っても、母と一緒に暮らしているそうだ。
「馬は本来、群れで生活します。当歳は母とともにほかの馬と一緒に放牧地を走りながら、馬にとって自然な環境で馬社会のルールを覚えるのがひとつ。もうひとつは人に慣れるための馴致です。幼い馬は人に抵抗感があるので、人はまったく触れられません。母のそばで落ち着いているときに頭や鼻をなでられたり、体を触れられたりしても驚かないように人との距離感を取れるようにします。とはいえ幼いですから、馴致ばかりではストレスになるのでほどほどに。疲れた仔馬はカイバを食べたら、寝わらの上にゴロンと横になり、母のそばで寝ています」
問題なければ夜間も当歳と放牧に
放牧中にケガをしていないか、運動量は十分か、栄養は足りているか……。そうした健康管理は毎日きっちりとチェックされているという。
「問題がなければ、日中だけでなく、夜間も放牧に出ます。成長途上の当歳にとって、夜間放牧はきついのですが、母と一緒につらい経験を重ねると、立派な競走馬として成長するのでとても重要です。そうやって環境の中で体を鍛えて成長すると、馬房はあっという間に狭くなるため、母と一緒にいられるのは生まれてから大体半年ほど。3番仔はあと2~3カ月で離乳してイヤリング厩舎に移動します。当歳を次のステップへと送り出した母は、周りの繁殖牝馬とともに健康管理に注意しながら年明けの出産シーズンに備えるのです。グランアレグリアも、そろそろ仔馬との別れのときですね」
杉田さんの話しぶりからは、レースで走っていたころと同様に繁殖牝馬としてもグランアレグリアの充実ぶりが伝わってくる。新潟デビューが予定される初仔の走りはもちろん、2番仔、3番仔の成長とともに4番仔の誕生も楽しみだ。
「競走馬として活躍した牝馬が繁殖でも成功することは簡単なことではありませんが、初仔をはじめ産駒の評判もとてもよく、ぜひ歴史に名を刻んでほしいと思います」
母としても成功した牝馬といえば、最近ではエアグルーヴやシーザリオが思い浮かぶ。この2頭のファミリーからは名馬が次から次へと生まれている。グランアレグリアも、偉大な2頭に続くのか。この馬の第2章は、まだ始まったばかりだ。