あの馬は今こうしている

20年桜花賞制覇のデアリングタクト 「お父さんはベンバトル。この初仔は兄繫幸と私の夢の結晶です」(岡田牧雄代表)

公開日:2025年4月11日 17:00 更新日:2025年4月12日 11:05

岡田スタッドで繫殖牝馬に

「お父さんはベンバトル。この初仔は兄・繫幸と私の夢の結晶です」

 新型コロナウイルスが拡大した2020年は、4月16日に全47都道府県を対象に緊急事態宣言が出され、12日の桜花賞は無観客で行われた。雨が桜の花びらを濡らす中、重馬場をものともせず、泥んこでゴール板を先頭で駆け抜けたのがデアリングタクト(父エピファネイア)だ。3戦目での戴冠はキャリア最少タイ。その後、オークス、秋華賞も無敗で制し、無敗の3冠牝馬となった。偉大な牝馬は23年10月6日に現役を引退した。どうしているのか。

 全13戦5勝で競走生活を終えたデアリングタクトは今、北海道新ひだか町にある岡田スタッドで第二の馬生を過ごしている。母として繁殖牝馬になり、今年3月8日に初仔の牡馬が生まれた。代表の岡田牧雄さんに話を聞いた。

「お父さんは、ベンバトルです。出産は予定日より10日ほど遅れましたけど、安産で子供は30分ほどで立ち上がりました。額に星形の流星があってかわいいですよ。お父さんは鹿毛、お母さんは青鹿毛なのに、子供は栗毛なんでね、どこから遺伝したのかなぁ。でも、脚長の体形で、初仔にしては馬格もある。スカッとした好馬体だから、走りそうな雰囲気です。今はお母さんに寄り添いながら、元気に牧場で遊んでいます」

 名前はまだ決まっていないが、離乳して育成を終えたら、母と同じ栗東の杉山晴紀厩舎に入厩予定で、鞍上も同じく松山弘平騎手でデビューする予定だという。順調ならデビューは2年後。今から楽しみだ。

 母としてのデアリングタクトはどうなのか。

「元々、おとなしい性格で、子供の面倒をすごくよく見てくれます。種付けも上手で、2回目で受胎してくれました。お産もスムーズで、繁殖牝馬としても優秀ですね。繁殖牝馬は、丈夫で元気な子供を産んでくれるかどうか。これが一番大事。その点、初仔からいいサイズの子供を出してくれるんだから、こんなにうれしいことはありませんよね」

父は4年の交渉でビッグレッドファームへ

 父ベンバトルは英国生まれのドバウィ産駒。なぜこの馬が選ばれたのだろうか。

「実は、ベンバトルは兄が『いい馬でぜひウチにほしい』と目をつけていて、競走馬として現役で走っていた4歳のときから、馬主のゴドルフィンに打診していたんです。4年がかりの交渉の末、話がうまくまとまって兄の牧場に種牡馬として迎え入れることができました」

 岡田さんの兄といえば4年前に亡くなった岡田繁幸さんだ。設立したラフィアンターフマンクラブは、マイネルやマイネ、コスモなどの冠名で競走馬を所有。競馬ファンには、「マイネル軍団の総帥」としておなじみだろう。そんな軍団の生産育成牧場ビッグレッドファームは、種牡馬を繋養するスタリオンでもあり、ゴールドシップやウインブライトなどとともにベンバトルも22年から繋養されている。

「ベンバトルは4歳時にドバイターフを含むGⅠ3勝。そのドバイでは、②着ヴィブロスを3馬身4分の1千切り、③着リアルスティールも寄せつけませんでした。欧州馬ながら、軽い芝でのスピードもありますから、日本の競馬にも合うと思い、私も期待している種牡馬なんです。デアリングタクトの底力と重ね合わせれば、初仔も走ってほしい。この初仔は兄と私の夢の結晶ですね」

セレクトセール当歳はパスして1歳で落札

 さて、デアリングタクトは北海道日高町の長谷川牧場で生まれた牝馬。父エピファネイアの初年度産駒で、岡田さんは18年のセレクトセール1歳で税抜き1200万円で落札した。当歳のときもセレクトセールに上場されながら、そのときはスルーしていたが……。

「当歳時のデアリングタクトは馬体がかなり細くて、将来像が描けませんでした。しかし、1年たって展示で引き馬を見ると、歩く姿がとても速くて、運動神経のよさが伝わってきましたし、筋肉の質もとてもよくなっていたんです。セリなどで馬を見るときは、筋肉の質に注目していて、その馬の筋肉量だけでなく、トレーニングをしながら強くなる筋肉か、それとも鍛え込むと硬くなる筋肉なのかといったことをチェックします。その筋肉の違いによって、将来の成長がまったく異なるからです。1歳時のデアリングタクトは馬体の印象は当歳のときとそれほど変わりませんでしたが、筋肉の質のよさから具体的な将来像が描ける馬体になっていたので、購入することを決めたのです」

 当時の1歳セッションの平均価格は4600万円ほど。中間価格は3100万円だから、デアリングタクトの1200万円は、かなり安い買い物だった。

「私のように当歳から見ていた馬主さんは、1年の成長を期待していたと思いますが、1歳時も馬体が細く見えたことで敬遠された方が多かったのではないでしょうか」

 岡田さんの方針で1歳時は昼夜放牧で基礎体力を養うと、入厩前の坂路調教では、大きなストライドで駆け上がり、かなりの手ごたえがあったそうだ。その見立て通りにデビューから2連勝で桜花賞を迎えた。

 レースは中団のインで我慢して3角過ぎから外に持ち出されると、ほかの馬が重馬場に苦しむ中、この馬だけ驚異的な末脚を発揮。粘り込みを図る1番人気レシステンシアを1馬身半振り切って①着でゴールイン。岡田さんにとっては、クラシック初制覇だ。

「父と兄も含めて初めてのクラシックホースですから、うれしかった。そして史上初となる無敗の3冠馬です。日高に貢献できたと思いますし、私自身、デアリングタクトにはたくさん勇気をもらいました。本当に感謝しています。繁殖牝馬としても、たくさんいい仔を産んでほしいですね」

 偉大な母を持つ初仔は男馬だ。皐月賞、そしてダービーへ。岡田家の夢が、この馬に託されている。

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