あの馬は今こうしている

21年キーンランドC覇者レイハリア 谷岡代表に聞く

公開日:2024年8月23日 17:00 更新日:2024年8月23日 17:00



 札幌で行われるGⅢキーンランドCは、サマースプリントシリーズ第5戦で、GⅠスプリンターズSの前哨戦でもある。シリーズ制覇を狙う馬や秋の大舞台を目指す馬など陣営の思惑はさまざまで、例年好メンバーがそろう。3年前、未勝利戦から4連勝でこのタイトルをゲットしたのが、レイハリア(牝、田島俊明厩舎)だ。いまどうしているのか。谷岡牧場(北海道新ひだか町)代表の谷岡康成さんに聞いた。

「生まれたころからトモが厚くスピードタイプ。初年度はエフフォーリアを種付けしました」

 2021年のキーンランドCを勝って賞金を上積みすると、スプリント重賞を中心にキャリアを重ね、3年連続出走した昨年のキーンランドCを最後に現役を引退した。

「牧場に戻ってからは、その後の繁殖生活に備えて疲れを癒やしながら、馬体をチェック。脚元や内臓には問題がありませんでした。とても健康で、何よりですね」

 気になるのは、繁殖牝馬として初めての交配相手だろう。どんな種牡馬を種付けしたのか。

「今年はエフフォーリアです。ウチで今年、生まれたエフフォーリアの子馬の馬体がよくて、それが印象に残っていましてね。それでエフフォーリアにしました。初めての種付けも、慌てることなくスムーズ。まずは繁殖牝馬として順調なデビューです。受胎? えぇ、無事に確認できました。いまは母馬の体も安定して、6、7頭のグループで放牧に出ています。来年、仔馬が生まれてくるのが楽しみですね」

 放牧に出るグループは、すべて受胎した牝馬というわけではなく、受胎していない牝馬もいるという。仲間と一緒に牧草地を走り回ったり、青草を食べたりしながら過ごしているそうだ。

 さて、レイハリアが生まれたころの話を聞くと、「母ライトリーチューンの初仔で、生まれたころは小さかったのですが、離乳して1歳にかけて大きくなりました」と記憶をたどるように語り始めた。
「とても筋肉質で、特にトモに厚みがあってスピードがありそうなタイプでした。同じ世代の中では評価が高かった馬ですよ」

 母ライトリーチューン(父マンハッタンカフェ)は残念ながら勝ち星を挙げることができないまま繁殖入りした。そのお腹にロードカナロアの仔を宿していたときに、繁殖セールで購入したという。

「母は確かに未勝利でしたが、デビュー戦は差のない③着でしたし、その半姉バウンシーチューンは未勝利戦とフローラSを連勝してオークスに出走しています。血統的に魅力でしたし、やっぱり決め手はお腹の仔でしたね」

 ロードカナロアの初年度産駒がデビューしたのは17年。谷岡さんがライトリーチューンを繁殖セールで手に入れる17年まで、カナロアの種付け料は初年度の14年と同じ500万円だった。それが、初年度産駒のアーモンドアイや翌年のサートゥルナーリアなどが相次いで活躍したことで、19年に1500万円、20年に2000万円にハネ上がる。カナロアの評価が高くなる前に、カナロアの仔を受胎した母を購入した決め手は何だったのか。
「サンデーサイレンス系のディープインパクトの血がかなり広がっていたので、そうではないキングカメハメハの血を引くロードカナロアは、とても有望な種牡馬だと思いました」

 20年12月5日、中山競馬場での新馬戦芝千二は惜しくも②着。その後、4戦目の中山ダ千二で勝ち上がると、1勝クラスの雪うさぎ賞も2番手から抜け出す危なげないレースぶりだった。続く葵S(重賞)も、13番人気の低評価を覆し、ヨカヨカをハナ差退けて先頭ゴールイン。

 3歳限定のレースでの連勝が評価され、迎えたキーンランドCは古馬との初対戦ながら3番人気に評価を上げる。逃げた同期のメイケイエールを前に見ながらレースを進めると、最後はエイティーンガールの猛追をアタマ差抑えて4連勝をマークした。51キロの軽量だったとはいえ、古馬を完封する横綱相撲は実力開花を思わせるレースぶりだった。

「デビュー前から期待していたので、うれしかったですね。それでも、入厩前にお世話になった小国スティーブルや田島厩舎の方々、連続して騎乗してくれた亀田騎手、みなさんのおかげでの4連勝だと思っています」

 その後は休養を挟み、同じ年の11月の京阪杯で復帰するも⑯着に惨敗。翌22年はGⅠ高松宮記念にも出走したが、引退レースとなった昨年のキーンランドCまで見せ場のないレースが続いて、故郷・谷岡牧場に戻っている。

「古馬になってからの成績は残念ですが、この馬には繁殖牝馬として期待しています。ホント、いまからエフフォーリアの仔が生まれてくるのが楽しみです」

 そのエフフォーリアは3歳で天皇賞・秋に挑戦すると、1歳上の3冠馬コントレイルを撃破。返す刀で有馬記念も連勝して、21年の年度代表馬になっている。ロードカナロア譲りの母のスピードに、父の完成度の高さが重なると、来春、誕生する初仔の能力はどれほどだろうか。関係者ならずとも競馬ファンも楽しみだ。

谷岡牧場は「サクラ」の冠名でもおなじみ

 レイハリアを生んだ谷岡牧場は、新ひだか町にある老舗牧場で、現代表の祖父・増太郎さんが昭和初期に開場した。父・幸一さんのときに名牝・トウメイが、天皇賞・秋と有馬記念を勝ち、八大競走制覇を成し遂げ、牝馬として初めて年度代表馬に輝く。

 トウメイが活躍する一方で英国から導入した繁殖牝馬スワンズウッドグローヴの産駒が相次いで勝ち星を重ねて、谷岡牧場を代表する牝系に広がっていく。その中には、サクラチヨノオー(1987年朝日杯3歳S、88年ダービー)やサクラホクトオー(88年朝日杯3歳S)などもいる。サクラセカイオー(93年エプソムC)やサクラエイコウオー(94年弥生賞)も、このファミリーだ。

 その後も、谷岡牧場はサクラチトセオー(95年天皇賞・秋)やサクラキャンドル(95年エリザベス女王杯)、サクラローレル(96年天皇賞・春、有馬記念)なども生んでいる。サクラローレルはトウメイに続いて、牧場2頭目の年度代表馬だ。

 ここまで読んだ競馬ファンならお気づきだろう。そう、谷岡牧場は、「サクラ」の冠名の馬との結びつきが強い。今年の東京新聞杯を勝ったサクラトゥジュールも、谷岡牧場の生産だ。

最新記事一覧

  • アクセスランキング
  • 週間