【日本ダービー・8紙合同特別企画 ダービータイムズ】2017年レイデオロ 名伯楽の悲願を叶えた親子制覇
公開日:2025年5月26日 14:00 更新日:2025年5月26日 14:00
皐月賞⑤着から必然の反撃
2004年に史上初となるNHKマイルC→ダービー連勝の偉業を成し遂げたキングカメハメハ。それから13年。2017年に親子制覇を果たしたのがレイデオロだ。
デビューから3戦全勝で臨んだ皐月賞では⑤着と初黒星。のちにダービーでリベンジを果たしたのだが、この1冠目の敗戦は大きな意味を持つ布石でもあった。
所属するのは美浦の藤沢和雄厩舎。数々の名馬を輩出してきた名門も、牡馬クラシックにはなかなか縁がなかった。
ダービーにはそれまで18頭が参戦。2002年シンボリクリスエス、2003年ゼンノロブロイでは2年連続②着と涙をのんでいる。
3歳春に照準を定めて出走権利を取り、ピークの状態に持っていかないと届かない世代の頂点。馬の成長に合わせて無理をさせないのが藤沢和雄厩舎のスタイルだけに、矛盾を抱えながらの挑戦でもあった。
実際、前記のシンボリクリスエス、ゼンノロブロイともにダービー制覇こそ叶わなかったが、その後に現役最強馬へと成長。GⅠタイトルを積み重ねて、年度代表馬の称号を手にしている。
この2頭はともに皐月賞には不出走。トライアルの青葉賞を制しての参戦だった。
一方、レイデオロは2歳10月に新馬勝ちのあと、暮れの中山で葉牡丹賞と当時GⅡだったホープフルSを連勝。早い段階でダービー出走が可能な賞金を加算できていたことが、先輩たちとの大きな違いだ。
春はトライアルを使わずに皐月賞から始動。今年のクロワデュノールがそうだったように最近でこそ多くなった1冠目への直行も、当時は異例といえるローテーションだった。それもあって、5番人気とファンの評価は高くなく、結果も⑤着まで。
とはいえ、休み明けで4コーナー14番手から目立つ末脚を見せての0秒4差だ。“広い東京の二千四百メートルに替われば”と思わせるには十分な走りだった。
迎えた2冠目。1番人気に推されたのは皐月賞組ではなく、青葉賞を好内容で勝ったアドミラブル。レイデオロはこれに次ぐ2番人気。前走で見せた末脚とひとたたきした上積みが買われて、皐月賞の上位馬よりもファンの支持を集める形に。
そして、名伯楽の悲願成就に向けて、最後のピースを埋めたのは鞍上だった。
デビューから手綱を取り続けてきたのはクリストフ・ルメール。前週のオークスを同厩舎のソウルスターリングで制し、最高潮のムードで大一番へと向かった。
ダービーにはそれまで2回参戦して、2015年がサトノクラウンで③着。そして2016年はサトノダイヤモンドで鼻差②着と惜敗が続いていただけに、期するものがあったか。
レースはマイスタイルが逃げて前半5F63秒2と“超”がつくスローペース。出たなりで後方に控えて14番手で2コーナーを回ったが、展開的には厳しい位置取り。
ところがだ。ペースが遅すぎるとみた鞍上が、向正面でゴーサイン。一気に動いて2番手までポジションを上げたから驚かされた。
予想外ともいえるルメールの仕掛けに、場内からはどよめきが起きたほど。
とはいえ、ただの奇策ではない。たとえ道中で動いても、折り合いをつけられる確信があったのだ。これもデビューから手綱を取り続けて、完全に手の内に入れていたからこそ。
思い切った策の中でもしっかり脚をためられたから、最後の直線でも余力十分だった。残り600メートルから11秒5―10秒9とギアアップ。ラスト1Fも11秒4でまとめて、②着スワーヴリチャードの追撃を4分の3馬身しのいだところが栄光のゴールだった。
父キングカメハメハは2015年ドゥラメンテに次ぐ2度目の親子制覇。そして、トレーナーにとっては開業30年目にして初の牡馬クラシックのタイトルを、ダービーの大舞台で掴んでみせた。
皐月賞⑤着からの大いなるリベンジは必然だったか。第84回ダービーは名伯楽と名手の凄みがあらためて見られた一戦でもあった。