競馬の備品まるごとHOWマッチ

公開日:2025年3月28日 17:00 更新日:2025年3月28日 17:00

フランス競馬でゲートが開かない珍事

 先日、フランスで行われた競馬レースで4頭のゲートが開かない珍事が起こった。日本ではあまり聞かないハプニングだが、改めてゲートなしで再発走を行ってレースは無事に成立したという。そこでふと思ったのが、競馬にまつわる設備や備品類の数々。一体誰がつくって、お値段はどれくらいするのだろうか?

【発馬機】安心の日本製で練習用でも3000万円

 一般的には(スターティング)ゲートと呼ばれているが、正式には「発馬機」という名前がある。発馬機は出走馬がスターターの合図で同時にスタートできるよう考案されたもので、フランスのように失敗は許されない。日本で初めて使われたのは1907(明治40)年の京浜競馬倶楽部(現・川崎競馬場)。

 それまでは旗を振ったりしてスタートさせていたが、フライングする馬が続出していたという。 その後、改良に改良が重ねられ、1960年に現在のように馬を1頭ずつ収容できるウッド式と呼ばれる箱形発馬機が登場。引き金を引いて前扉を開けるのは今と変わらない。1975年にはその前扉を開ける電動式の発馬機が登場。2023年からは最新式の日本製「JSS50型」が採用されている。

 さて、お値段はどれくらいなのか?

「価格は公表されていませんが、昨年、函館競馬場で使われていた練習用発馬機(10枠)が中古で販売されました。それによると、2007年の取得価格は約3343万円でした」(競馬記者)

 練習用でもウン千万円なので、本番用ともなると1ケタは違いそう。ちなみに、JRAは昨年度、発馬機作業などの業務全般を日本スターティング・システムと約19億3000万円で契約を結んでいる。同社の現場スタッフが出走頭数によってゲートをつなげたり、撤去したりとせっせと作業してくれるおかげで、公正で安全なレースができているわけだ。

【馬衡器】お馬さんの体重計は300万円前後

 騎手はレース前とレース後(7着まで)に2度検量を行うが、競走馬は原則、レース直前の水曜日または木曜日の調教後に計量したものを発表する。お馬さんの体重を量るのが「馬衡器」と呼ばれる機械だ。衡とは、はかりのことだ。
「うちでは、通常800キロ、MAXで1トンまで量れる馬衡器を製造しています。注文主に応じてつくるオーダーメード製で、今はデジタルになっています」

 こう説明してくれたのは京都市南区にある多田製衡所の担当者。

 ここで、ふとギモン。JRAが発表する馬体重はなぜ「2キロ刻み」なのか?

「昔からの慣習で2キロ刻みになってまして、こちらもそう調整しています」(前出の担当者)

 400~500キロ超もある馬にとって1キロは誤差の範囲ということらしい。多田製衡所は昨年、栗東トレセンに馬衡器を1台納入しており、落札価格は約299万円だった。

【ブロンズ像】競馬場にある銅像は約100万円

 傑出した成績を残した競走馬は、ブロンズ像(銅像)となってファンの記憶にとどめられる。最近では、京都競馬場内のメモリアルロードに牝馬3冠のリバティアイランド号が設置されたばかり。東京競馬場のローズガーデンにもGⅠ7勝のウオッカ号の銅像が鎮座している。この両方を制作したのが東京都小金井市の銅像制作で有名なセキセイ堂だ。

「熟練した彫刻家がそれぞれの特徴に合わせて一頭一頭を手で制作しています」(セキセイ堂担当者)

 なかなか手間暇かかる作業のよう。リバティアイランド号の銅像価格は、JRAの一般競争入札では99万5500円となっている。

【投票用マークシード】1社で2億枚を製作しているが……

 競馬ファンにはおなじみ投票用マークカード。鉛筆やペンで枠をなぞり、勝馬投票券を購入する際に使う。

 しかし、時代は変わりつつある。JRAはエコロジーの観点から一部マークカードの提供を終了。GⅠカード、クイックカード、ライトカードの3種類で、GⅠカードは昨年いっぱい、後者の2種類は在庫限りで提供を終了する。その代わり、スマートフォンを使うUMACAスマートやスマッピー、競馬場やウインズではタッチパネル購入の利用を呼びかけている。

 このマークカードを製作する東京都中央区のディーソルの担当者がこう説明してくれた。

「JRAさんの競争入札で投票用マークカードを納入しています。1箱9000枚入りで、年間にするとざっと2億枚を製作しております」

 ディーソルのような業者が東日本と西日本に数社ずつあり、総数にすれば年間10億枚以上はつくられているようだ。

「ただ、枚数自体は減る傾向にあると思います」(前出の担当者)

 入札価格から推測すると、1枚当たり1円くらいか。競馬を長く楽しむためにも、ゴミの削減にもぜひ協力したい。

【ペグシル】1本3・5円で買えるアイデア商品

 そして投票用マークカードとセットで利用するのが、携帯用の鉛筆。大阪市淀川区の岡屋が製造販売する「ペグシル」だ。

 ペグシルの誕生は第1次オイルショック真っただ中の1975年。最小限の材料でつくる画期的なエコ商品だった。

「もともとはゴルフのスコア記入用に開発したものです。当時のゴルファーは短い鉛筆を使ってスコアを記入していましたが、書きにくい上にポケットに入れると中が真っ黒になる。そんな時(1974年秋)、創業者の井尻保宏がゴルフ場の売店の牛乳びんのキャップを外そうとした際、手にしたのが小さな針の付いた栓抜き……。ペグシルは牛乳の栓抜きがヒントでした」(岡屋担当者)

 最初は手作りだったというが、40年ほど前にJRAにマークカード用の筆記具として納品すると業績は大幅に向上した。

「最盛期は月産1000万本を超えました。ところが、コロナ以降は競馬場の入場休止や馬券のスマホ購入が増えたこともあり、マークカードと同じく売り上げは減少傾向にあります。廃プラの問題もあり、現在は100%回収できるエコの取り組みを始めています」(前出の担当者)

 それでもマークカード派に支えられ、岡屋は昨年11月分だけでも約2500万円分のペグシルをJRAに納入している。ペグシルは、2万本以上の注文なら1本当たり3・5円(税抜き)で一般でも購入できる。かなり安いとはいえ、大事に使いたいものだ。

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