ファンに愛されたメイケイエールが第2の〝馬生〟へ 新たな物語が幕を開ける
公開日:2024年3月27日 12:30 更新日:2024年3月27日 12:55
「もう帰ってこないと思うと寂しいですね」(武英調教師)
本日、3月27日の午前9時24分。栗東トレセン内の厩舎横に止まっていた馬運車は動き出した。第2の〝馬生〟を過ごすメイケイエールを乗せて。
管理した武英師、コンビを組んだ池添騎手、厩舎スタッフに多くの報道陣がその退厩シーンを見送った。ノーザンファームしがらきでひと時を過ごし、北海道安平町のノーザンファームへと移動する。
「もう帰ってこないと思うと寂しいですね」
武英師だ。
メイケイエールは決して、順風満帆な競走馬生活を送ったわけではない。一生懸命過ぎる性格ゆえ、レースへの悩みは尽きなかったと話す。その分、勝てば喜びは数倍にも。ファンの皆が知るところだろう。
「やはり、一番悩んだのはチューリップ賞ですね。勝ったけど、全然勝った気がしなかった。その夜、北海道の浦河に移動したんですが、桜花賞に向けてどうすべきかを考えると眠れなかった。結局、一睡もできずに翌日、牧場を回って馬を見たことを覚えています。牧場の皆さんは勝ったことを祝福してくれましたが」
苦笑いしながら苦しかった胸の内を回顧した。デビュー3連勝で重賞2勝。走るポテンシャルを秘めつつも、それを出し切れるかが最大の課題でもあった〝オテンバ〟の域を超えた一頭。折り返し手綱、特殊ハミ等々。陣営の試行錯誤が競馬ファンに伝わり、ファンからの応援へと結びついた。
「これが終わりでなく、物語りの始まり」(武英調教師)
「(高松宮記念の)直前はファンレターが100通近く届きました。全部読ませてもらい、(担当者の)吉田に渡した。競馬から帰ってきたら、3、40通と届いていた。ファンの声援、深い愛情を感じました」
馬房前の壁には、ファンから届いた凄い数の御守りも飾ってあった。愛された証拠だ。
そしてメイケイエールは母となる。
「エールのスピードを受け継いでほしいですね。掛かる気性を気にされますが、ドンドン受け継いでほしい。短距離ならドンドン掛かっていい(笑)。順調なら3年後にデビューする仔をファンの皆さんと楽しみにしたいですね。これが終わりでなく、物語りの始まり。どこまでもつながってほしい」
確かにそうなのだ。競馬はブラッドスポーツ。3頭の馬から始まり、そこから枝葉を伸ばし続けて様々な名馬が誕生してきた。これから、メイケイエールは血統欄の母系に名を残し、競馬の歴史を紡いでゆく一頭となる。同じ栗毛の奇麗な流星の仔なのか、それとも母型の白毛か。気性を含めてどんな仔が誕生するかの興味は尽きない。
「ひとまず、無事に送り出せ、使命を果たせました。でも、悩みがひとつ減ってしまったかな(笑)」
馬運車を見送り、最後にこう冗談めいたトレーナーの横顔は晴れやかでもあり、少し寂し気でもあった。