9冠牝馬アーモンドアイの真実

【好評連載】9冠牝馬アーモンドアイの真実〈13〉(ネットオリジナル)

公開日:2023年2月28日 14:00 更新日:2023年2月28日 14:00

 国内外でGⅠ9勝、獲得賞金19億1526万3900円はともにJRAの記録を更新。牝馬3冠を達成し、年度代表馬は2度も受賞――。

 数々の金字塔を打ち立てて20年に引退した女傑アーモンドアイ。その競走生活に密着取材を続けてきた新居記者が、当時のノートや関係者の証言とともに、輝かしい競走生活の表と裏を紐解いていく。


   ◇   ◇   ◇


 5歳秋を迎え、現役シーズンは限られている。GⅠ8勝の新記録達成は出来るのか。トラブルがあれば、即引退の可能性も十分ある。そんな崖っぷちの状況に近かった。

 これに追い打ちをかけたのが天皇賞・秋へ向けた調整過程だった。

 20年10月2日の帰厩時が498㌔。マッチョな体になり、「牧場から戻ってくる度に良くなっているんだよね。ヴィクトリアMの時はトモのバランスが悪くなる時があったものの、今回は非常にバランスがいい。今までで一番いい。安心感がある」と鈴木助手。

 しかし、速い追い切りを重ねても陣営の思惑通りには馬体が絞れてこなかった。年齢を重ね、若駒時より代謝が落ちて、脂肪が付きやすくなる。人間同様、自然の摂理には勝てないのか。

 1週前の時点で497㌔。その後にダートコースで長めに乗ったり、出来ることに着手して迎えた当週の火曜が500㌔。追い切り翌日の木曜が496㌔と陣営が苦心しているのが手に取るほどわかる。

 前年の天皇賞・秋を勝った時も調子が上がらず、当週に「ようやく80%になりました」と何とか間に合ったという仕上がり。それでも、レコードに0秒1差の快走で勝利を収めた。競馬に臨めば、強い精神力で必ず力を発揮するのがアーモンドアイ。それまで幾多の逆境や苦境をはねのけ勲章を積み上げてきた。

 その期待に応えるのが稀代の名馬。当週には顔つきが変わり、気持ちが入り、レース当日には490㌔と馬自身がキッチリ調整してきた。とはいえ、皮膚感はやや厚ぼったく、それでも前年同様に8割程度の仕上がりなのも確かだった。

 そんな臨戦態勢でも、勝利するのが千両役者だろう。②着フィエールマン、③着クロノジェネシスには詰め寄られたが、それは好スタートから早め先頭の安全策を取ったから。勝ちに行く競馬で前人未到のGⅠ8勝を達成した。

 コロナ禍で限られた観客しか入れなかったが、ファンの前を通り、引き揚げてくるルメールは涙をこらえきれなかった。

「ロングスパートだから最後は疲れていました。坂を登ってからが苦しかった。ストライドが小さくなって、少しフラついて内にモタれ気味に。左ステッキ入れたら真っ直ぐ走ってくれました。20年後もこの新記録達成の日を覚えている。特別な日です」

 苦境をモノともしない強い精神力。それを再度、目の当たりしたレースだった。

新居哲

新居哲

 馬とは関係のない家庭環境で育った。ただ、母親がゲンダイの愛読者で馬柱は身近な存在に。ナリタブライアンの3冠から本格的にのめり込み、学生時代は競馬場、牧場巡りをしていたら、いつしか本職となっていました。
 現場デビューは2000年。若駒の時は取材相手に「おまえが来ると負けるから帰れ!」と怒られながら、勝負の世界でもまれてきました。
 途中、半ば強制的に放牧に出され、05年プロ野球の巨人、06年サッカードイツW杯を現地で取材。07年に再入厩してきました。
 国枝、木村厩舎などを担当。気が付けば、もう中堅の域で、レースなら4角手前くらいでしょうか。その分、少しずつ人の輪も広がってきたのを実感します。
「馬を見て、関係者に聞いてレースを振り返る」をモットーに最後の直線で見せ場をつくり、いいモノをお届けできればと思います。

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