あの馬は今こうしている

2011年富士S制覇 エイシンアポロン

公開日:2025年10月16日 14:00 更新日:2025年10月16日 14:00


「内臓も脚元も歯も丈夫。今年18歳ですが、元気いっぱいです」

 2010年、GⅠ天皇賞・秋で⑰着に敗れたエイシンアポロンは長期休養に入ると、翌年の復帰戦・GⅡ毎日王冠で④着に善戦し、続くGⅢ富士Sは不良馬場をものともせずに1番人気に応えて先頭ゴールイン。返す刀で挑んだGⅠマイルCSで念願の初GⅠタイトルをモノにした。2歳で勝ち上がる仕上がりの早さと古馬でGⅠ馬に上り詰めた成長力を期待され、レックススタッドで種牡馬入りしたが、20年で種牡馬も引退した。今どうしているのか。

 エイシンアポロンが余生を過ごしているのは、北海道浦河町にある栄進牧場だ。レックススタッドでの種牡馬生活を終えると、21年にこちらに移動してきたという。普段は繁殖牧場で仕事をしながらファンが訪ねてくると引退馬の案内も担当する名古屋さんに話を聞いた。

「今は夜間放牧をしています。夕方に放牧したら翌朝6時に収牧です。夏もアブの被害を避けて夜間放牧していました。馬がアブに刺されると、腫れたりかゆくなったりしたところを、こすったり噛んだりします。そうすると、脱毛や細菌感染の原因となるのでとても厄介。アブがいる夏は、活動時間帯の昼を避けるのが夜間放牧の目的ですが、今年の夏は北海道も暑かったので、暑さを避ける意味もあります」

 牧場の所在地・絵笛という地名は、アイヌ語で小山も意味する「エプイ」に由来するように、近くを流れる絵笛川が太平洋に注ぐ高台で、緑あふれる自然豊かな場所だ。幼虫を水中で過ごすアブにとっても川は重要で、成虫になると数キロも飛んで吸血するターゲットを探す。それで刺された馬はアレルギー症状を起こすほか、最悪の場合、命が奪われるだけに、馬産地ではアブ対策が欠かせないのだ。

 名古屋さんはじめスタッフのサポートがあり、アポロンが“難敵”に追い回されることなく過ごすことができているのは何よりだろう。

「収牧して厩にいるときに馬体をチェックしますが、こちらにきてから病気はしたことがありません。内臓も脚元も丈夫です。歯もしっかりしています。今年18歳ですが、まだまだ元気いっぱいです」

競走馬を引退して13年、今でもファンが

 ほかにどんな仲間と暮らしているのか。

「エイシンデピュティ(23歳、父フレンチデピュティ、08年GⅠ宝塚記念など重賞4勝・9月15日に亡くなる)やエーシントップ(15歳、父テイルオブザキャット、13年GⅡニュージーランドTなど重賞3勝)などがいます。3頭とも1頭放牧です。子馬のころと違って、成長した男馬を複数で放すと、ケンカしたり、噛んだりして危ない。しかも3頭は種牡馬でしたから、引退して時間が過ぎたとはいえ、やんちゃな気質がありますからなおさらです。3頭ともそれぞれの放牧地で草を食んだり、時には隣の放牧地を見つめたりしながら、のんびりしています」

 それでもアポロンはスタッフになついていて、スタッフが放牧地を確認しにくると、近寄ってくることもあるそうだ。そんなかわいい姿を見にファンも訪れるという。

「競走馬を引退して13年、種牡馬をやめて5年、アポロンが競馬を離れてずいぶん時間が経ちますが、毎年夏休みなどの旅行シーズンにはアポロンのファンの方が必ず訪ねてきてくれるんです。1人で来られる方もいれば、グループの方もいます。競走馬の入れ替わりがどんどん早まる中、これだけ長く愛される馬に携われるのはありがたいことです」

 ところで名古屋さん、繁殖も担当しているということは、アポロンの血を受け継ぐ子馬の出産にも関わっているのだろうか。

「うーん、もうずいぶん昔のことだから、一頭一頭の詳しいことは覚えていませんが、関わったことはありますよ。アポロンは顔にある大きな流星が特徴で産駒もそんなタイプが多かったと思います」

 さて、今年の富士Sはどんなドラマが生まれるか。GⅠにつながるレースを楽しみにしよう。

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