栗東トレセンは9時半で30℃超え! 急激な猛暑からサラブレッドを守る厩舎の工夫

公開日:2025年6月18日 14:00 更新日:2025年6月18日 14:00

夏負け、熱中症が増える時季に

 春GⅠシリーズは、武豊メイショウタバルの勝利で幕を閉じた。

 その宝塚記念で、ひとつ気になるコメントが出ていた。②着ベラジオオペラの横山和からだ。

「少し夏負けの兆候があったかもしれない」

 同馬が暑さに強くないことは、昨秋の戦績も示す通りだが、鞍上がコメントに出すほどに反応の鈍さを感じたということ。今年の春季GⅠは比較的、朝晩が涼しい日が続いた中で行われてもきたが、6月の梅雨入りから変わった。

 この火曜、栗東トレセンは午前11時で気温は30度を超え、翌水曜はもっと早く、9時半で30度に達した。蒸し暑さも加わり、一気に夏がやってきた印象だ。全国的に猛暑日、真夏日を越す地点も多くなり、実際に、熱中症で搬送された人が増えたという報道は多く目にする。

 一気に気温が上がり、ここから夏日が続くから、サラブレッドには楽ではない季節となる。徐々に暑さが増す分には〝暑熱順化〟がスムーズに行われるが、急激な気温上昇には対応できず、夏負け、夏バテの馬も出てきてしまう。

 実際、栗東トレセンでは7時開門の冬時間からひと月の6時開門を経て、現在は5時30分から調教がスタート(計4時間)する。開門時間を刻むことも、効率的に馬の暑熱順化を図るためだが、一気の猛暑到来で今週から比較的、涼しい前半の時間帯に乗る馬は増えた。

調教時間の短縮、空調設備、瓦屋根に馬体の冷却と工夫は様々

 ある厩舎では、「普段は1頭の調教は約1時間45分ですが、1頭にかける時間を30分ほど縮め、後半の馬も早めに乗るようにしています」と暑熱対策を教えてくれた。

 各厩舎、工夫をこらしている。馬房前のミスト、送風機はほぼマスト。これは気化熱を利用したドライミスト冷却法で、湿度状況にもよるが、3度ほどの冷却効果が得られるそうだ。

 別途記事にある辻野厩舎では、昨年、厩舎の屋根を断熱材入りの瓦屋根へと改装した。非冷房とする厩舎ならではの工夫だろう。

 今季より厩舎一棟に空調システムを入れた石坂公厩舎では、屋根に断熱材を敷き、また西日が当たる馬房の窓には遮熱シートを貼っている。遮熱シートの効果は大きいという。

 各厩舎に暑熱対策があるが、取材を進める中で武英調教師がこんな独自の工夫を教えてくれた。

「ウチは夏場は上がり運動をなくして、シャワーで冷やすことを重点的に行っています」

 調教前にはクラッシュアイスで頸動脈のある首筋を冷やし、調教後は洗い場に設置するミストシャワーで体の熱を取るそう。

「これまで上がり運動の時間、冷却時間と比率を試行錯誤してやってきましたが、結果的に調教後に早く体を冷やした方が、息遣い、疲労と翌日の回復が早いことが分かりました。夏場でも出走頭数を減らさず使えている気がします」

 熱中症とは深部体温の上昇によるもの。普段、体の機能を守るため、一定に保たれているはずの深部体温が上昇。高温状態が続くことからくる体温調節の失調や機能不全の症状のこと。馬、人を問わず、冷やすのが主流となってきている。

 JRAはこの夏、中京開催での暑熱対策として、地下馬道に天井扇風機(35台)、下見所のトルネード式ミストファン(4台)を新設し、同時に、競馬場厩舎のエアコンは室外機への冷却素材貼付で空調効率改善を図ると発表した。

 もちろん、厩舎の設備投資は、調教師各自の負担となるが、各厩舎、預かった大切な馬を季節を問わずに全力を出し切り、無事にトレセンへ帰ってこれるかを第一に考えている知恵を絞っている。季節を問わず、全人馬無事に。やはりこれに尽きるのだ。

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