瓦屋根で暑熱対策! JRA初となる栗東・辻野調教師の試み 「馬たちが快適に過ごせる環境を」
公開日:2024年7月31日 14:00 更新日:2024年7月31日 20:07
先週より新潟では「競走時間帯の拡大」を実施
梅雨が明けて連日、暑い日が続く。
29日の栃木県佐野市では気温41℃を記録し、国内の観測史上最高気温まで0.1℃と迫った。
暑熱対策が叫ばれる中、競馬でも数年前からその夏場の暑さ対策には取り組んできている。パドックや馬場入場後の待避所でのドライミスト。さらに、地下馬道の送風機にレース後の馬用シャワーなど、サラブレッドの体温を上げ過ぎない、いわゆる熱中症対策に努めている。
今年は対策のひとつとして番組面も改正された。新潟では先週より始まった「競走時間帯の拡大」だ。1Rが9時35分発走と早くなり、5~6R間に約3時間半の休止時間を設けるもの。最終レースは18時25分発走と設定し、より暑い時間帯を避けてレースを行っている。同時に、装鞍所への集合はレース40分前。20分遅くなったことで、装鞍所での待機時間、パドック周回時間も大幅に短縮した。パドックは約5分間で4~5周の周回となった。人馬の安全面に配慮した結果だ。
屋根のプロが瓦屋根へと替えるきっかけ
年々、上昇する気温にどのように対応していくかかは毎年の課題となるのだが、栗東の辻野厩舎では、東西トレセン史上初となる試みを行っている。
厩舎、いわゆる馬房への暑熱対策として、厩舎屋根を従来のものから瓦ぶきに替えているのだ。
もともと、非エアコンの厩舎で、ミスト、送風機を空調としてきていたが、どのような考えから瓦屋根へとたどり着いた取り組みなのだろうか。
辻野泰之調教師に経緯を聞くと、こう教えてくれた。
「個人的に非エアコンという考え方でした。学生時代の知り合いに瓦屋さんがおり、〝一度、厩舎を見学したい〟という話から厩舎にきてもらったんです。そうしたら〝この屋根では暑いよね〟となったんです」
瓦は耐熱性、断熱性、遮音性に優れる
瓦屋は屋根のプロでもある。ここから改装の話がスタートした。実際に、瓦は日本家屋の代表でもあり、耐久性、断熱性、遮音性に優れているのは証明済み。夏は涼しく、冬は暖かくだ。
「瓦が空気の層をつくり、今より厚い断熱材も敷きます。その効果で、昼間の熱が夕方、夜まで続かないはず。もちろん、昼間の馬房温度も今と比べれば、違うはずです。自然の空気の中で〝暑熱順化〟すれば、馬自身も快適に過ごせ、暑い夏にも対応できる馬を育てられるかもしれません。馬房温度が今より低い中でドライミストを使えば、より効果的でもありますしね」
「冬場は暖かくなるはず。今後のモデルケースになれば」(辻野調教師)
現在、JRAの競馬にはシーズンオフはない。四季を問わずに走らせざるを得ず、また、寒さに強く、暑さに強くないのがサラブレッドだ。同時に、馬主から預かった大切な一頭をいかにレースで最大限の力を発揮させられる状態に持っていけるかが調教師の手腕でもあるから、馬優先の英断だった。
「正直、大きな投資となりました(苦笑)。でも、冬場は暖かくなるはずです。馬たちが快適に過ごせる厩舎環境をつくれて、今度のモデルケースになればうれしいですね」
トレセン厩舎はJRAの持ち物で、開業した調教師が借りるシステム。光熱費、水道代は調教師が負担する。消防法、建築法の範囲内で、かつ、JRAの認可が下りれば、改築は可能。もちろん、この辻野厩舎の瓦屋根も同じだ。
現在は厩舎の半分、10馬房分の屋根が瓦へと置き替わっている最中だ。完成はもう少し先だが、秋には全馬房で快適にくつろぐ馬を見ることができることだろう。JRAも注目する初の試み。42歳の若き調教師の新たなチャレンジがJRAの暑熱対策に一役買うかもしれない。