あの馬は今こうしている

7冠馬ディープインパクトの母ウインドインハーヘア

公開日:2025年3月7日 17:00 更新日:2025年3月7日 17:00

先月34歳の誕生日は北海道内外からファンが

 皐月賞の前哨戦・弥生賞は、2020年からディープインパクト記念として開催されている。その7冠馬は種牡馬としても大成功。ジェンティルドンナやコントレイルといった3冠馬をはじめ、数多くの有力馬を送り出したのはご存じの通り。そんな歴史的名馬を産んだ偉大な母がウインドインハーヘアだ。どうしているのか。

「教育係としての能力がすごくて、朝のあいさつをしないポニーを追い掛けています」

 1999年にアイルランドから日本にやってきたウインドインハーヘアは、ノーザンファームで繁殖生活を送り、12年生まれのレスぺランスを最後に繁殖を引退。その後も同ファームで繋養されていたが、14年からノーザンホースパークに移動した。乗馬運営課チーフの田澤直沙美さんに聞いた。

「ウインドは先月20日が誕生日で、34歳になりました。その日は道内はもちろん、道外からもたくさんのファンの方がお祝いにいらしてくださり、毎週いらっしゃる道内のファンの方はリンゴやニンジンをキレイに丸く、ウインドが食べやすい形にしたケーキをプレゼントしてくださいました。全国からもたくさんお手紙やプレゼントが届きました。食欲も旺盛で、いつもカイバをペロリと食べています。元気に34歳の誕生日を迎えられてスタッフ一同、本当にうれしく思っています」

 誕生日のほか、正月やクリスマスなどイベントの日などもプレゼントがあふれるそうだ。数多くの名馬を輩出しただけに全国から訪れるファンは引きも切らず、「大阪から毎月いらっしゃる方や有休を取ってこられる方などもいます」。

 ノーザンホースパークは、馬と触れ合える自然公園で、50ヘクタール近い広大な大自然の中で乗馬をしたり、引退競走馬やポニーと触れ合ったりできるほか、サイクリングはじめ各種アクティビティーを楽しむこともできる。ウインドインハーヘアがいるのは、見学厩舎のひとつだ。

「午前中はポニー3頭と乗用馬1、2頭と一緒に放牧地を走り回ると、午後は厩舎に戻ってご飯を食べたりしてのんびりと過ごす毎日です。とても世話好きで、よくポニーと一緒にいます。厩舎にいるときは、ファンの方の近くに来ることもあって、柵越しに鼻息を感じられるくらいにまで顔を近づけることもあるんです」

 繁殖していたノーザンファームからこの地に移動してきたのも世話好きゆえで、母のいない子馬の教育係としてだった。

「馬は鼻面を合わせるのがあいさつですが、放牧地でポニーが朝のあいさつをしないと、『きちんとあいさつしなさい!』といった感じで追い掛けています。観光ひき馬(スタッフが引く馬に乗る乗馬体験)で活躍している2歳の馬も、ウインドにしっかりと教育されたことが役立っています。教育係としての能力が非常に高く、周りの馬にも慕われているんです。そんな性格だから次々と名馬を生みだしたのかもしれませんね」

 競馬史にその名を刻んだ偉大な母は、いまも変わらず“母”だった。

直仔のほかにもGⅠ馬がズラリ 歴史に名を刻むこの牝系のすごさ

 ディープインパクトの母として知られるウインドインハーヘアは、ほかに15頭を産んでいる。そのすごさは、直仔はもちろん、孫、ひ孫の代にも幅広く活躍馬を送り出していることだ。競馬評論家の須田鷹雄氏が言う。

「ブラックタイドとディープインパクトは、全兄弟で距離適性はどちらも中長距離ですが、馬体はまったく違います。兄の方が馬っぷりはよく、弟はきゃしゃで、デビュー前の評価は兄が上でした。その兄から生まれたキタサンブラックは雄大な馬体を誇り、イクイノックスへと血をつなげます。一方、弟は強靱なバネで完歩が大きく、主戦武豊騎手に『飛んだ』感覚をイメージさせたことが話題でした。1頭の牝馬から、これだけタイプの違う種牡馬が生まれるのはすごいことです」

 ディープ産駒を挙げたらキリがないが、全兄からもスーパーホース2頭が誕生。いずれも社台スタリオンステーションの種付け料は、ディープ産駒のキズナと並んで最高の2000万円だ。

 その2頭の前後にも、母の血を後世に受け継ぐスターがいる。レディブロンドとランズエッジだ。

「レディブロンドは、来日する前のアイルランド・クールモアスタッド時代の生産で配合の方針がそもそも違い、シーキングザゴールドを付けたことからスプリンターです。そこからラドラーダを経てレイデオロに結びつきます。一方、ランズエッジは、孫の代にレガレイラとステレンボッシュ、アーバンシックが並ぶ。ディープインパクト級のGⅠ馬が1頭出るだけでも大変なことなのに、トップクラスの種牡馬をはじめ、いまなお有力なGⅠ馬を輩出し続けているのです」

祖母は故エリザベス女王所有の名牝ハイクレア

 この馬の血統表には名だたる馬がズラリと並ぶが、須田氏が続けてピックアップしたのはアドマイヤミヤビだった。

「ウインドインハーヘアがデインヒル産駒を受胎して来日したときに産んだライクザウインドの孫がアドマイヤミヤビです。デビューした産駒3頭はすべて勝ち上がり、3勝クラスが2頭。一般の競馬ファンはGⅠ馬に目が向きがちですが、ウインドインハーヘアの牝系は勝ち上がり率も高い。3分の2の確率で準OP馬を出すことは簡単なことではありません」

 偉大な母は34歳。シンザンが持つGⅠ馬の最長寿記録まであと1年と少しだ。生命力の強さも、この牝系の活力につながっているのか。

「海外には、スカーレットインクやミエスクなど名牝系が確立されていますが、日本にはこれまでありませんでした。そんな中、ウインドインハーヘアが導入され、活力ある馬を次々と送り出したことで、日本の名牝系の起点になり、歴史に名前が刻まれました。その祖母は、故エリザベス女王が所有していた名牝ハイクレア。欧州への憧れが強い日本競馬で、ハイクレアの血脈が花開くのは喜ばしいですね」(須田氏)

 サウジCを勝ったフォーエバーヤングも、ウインドインハーヘアのひ孫。この牝系がどこまで広がるか注目だ。

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