岡田スタッドで繋養「地元・高静小学校の課外授業で〝モデル〟や〝先生〟になったんです」
競馬ファンにとって、有馬記念の次は東京大賞典だろう。例年、地方と中央の砂の猛者が集い、大いに盛り上がる伝統のGⅠを2015年に5歳で制したのが、サウンドトゥルーだ。その後、GⅠタイトルを2つ重ね、ダート界のトップに名を連ねるも、18年末に船橋へ移籍。結局、11歳まで走り続け、セン馬ゆえ種牡馬にはなれず、21年4月に現役を引退した。今どうしているのか。
サウンドトゥルーの繋養先を探すと、生まれ故郷・北海道の岡田スタッドにいることが分かった。代表の岡田牧雄氏に聞いた。
「サウンドトゥルーは、私の自宅の隣の放牧地でのんびりと過ごしています。そこには元々、マイネルダビテがいたんですよ」
若いファンにはなじみがないかもしれない。ダビテは1987年、当時の共同通信杯4歳Sを勝ち、弥生賞③着から皐月賞、ダービーに駒を進めた。ダービーのフルゲートは24頭で、<22>着に敗れたが、思い入れが強かったという。
「私自身の名義を用いた初めての馬だからね、引退して90年から功労馬としてウチで繋養していたんだ。ものすごく長生きで、シンザンが持っていたJRA重賞勝ち馬長寿記録を更新してくれた。21年1月30日に放牧地の滑りやすいところで転んで動けなくなってしまって、私たちが見守って息を引き取ったんだよ。36歳8カ月27日でした。サウンドトゥルーが引退したのは、その2カ月後。サウンドトゥルーも長く頑張ってくれたから、同じ場所で長生きしてほしくて、ダビテと同じ馬房、同じ放牧地で繋養しているんです」
サウンドトゥルーが所属していた南関東は、年齢制限があって原則9歳以下。最上位のA1クラスの馬に限り、1年に1回⑤着以内に入れば、翌年も年齢制限を超えて出走できる仕組みがある。引退した21年、1月に続き2月のレースでも③着に入り、当初は現役続行の予定だったが、5月のレースに向けた調整の途中に右前の骨折が判明。協議の結果、引退が決まった。
夏の夜間放牧でも油断すると太るほど元気
今の体調はどうなのか。
「骨折の程度は軽く、船橋の厩舎で2カ月ほど治療してよくなったので、4月上旬にこちらにやってきました。えぇ、今はすっかり元気です。脚元も内臓も、どこも問題ありません」
サラブレッドの平均寿命は25歳くらいで、現在14歳。ヒトにたとえると中年だ。元気は何よりだろう。
「今は冬なので放牧は日中のみですが、夏は夜間放牧をします。それでもケロッとしているんです。食欲も旺盛で冬に脂肪を蓄え、夏はダイエットもかねて夜間放牧に出すんですが、動きながらも時々とまって牧草をよく食べる。だから、2回のカイバを冬と同じくらい与えると太るので、夏はカイバを少し減らすんです。油断すると太るくらい元気ですよ」
引退した今、仕事はない。のんびりと過ごす毎日だが、優しく人懐っこいから、訪ねてくるファンが絶えない。そんな性格のよさもあって、実は“仕事”に駆り出されることもあったそうだ。一体、どういうことなのか。
「淡々としたダビテとは対照的に訪ねてきたファンが放牧地の柵から呼びかけたり、撮影したりすると、近づいてくるんです。通常、見学の際はスタッフが立ち会うのですが、サウンドトゥルーに限ると、スタッフの立ち会いはありません。それくらい穏やかで、訪れたファンを見つけると、興味津々で近づいてきて、鼻をなでられても大丈夫です。こんな馬、ほんといません。そんな穏やかな性格なので、地元の高静小学校の課外授業で“先生”や“モデル”になったんです」
授業の内容は3年生が馬について学ぶものだそうだ。
「子供たちはサウンドトゥルーを柵越しにスケッチします。もちろん、その間もどっしりと動きません。授業の合間に鼻をなでたりしても、大丈夫です。で、私はサウンドトゥルーについて話をします。長い現役生活でたくさんのファンを引きつけていることに触れ、ファンの皆さんがサウンドトゥルーから諦めないことの大切さを学んでいるのではないか、と」
その課外授業では、岡田さんのような生産牧場のスタッフ以外にも、装蹄師や獣医師なども参加。セリの現場を見学することもあるそうだ。馬産地ならではの内容で、子供たちの情操教育にはうってつけだろう。
みんなのアイドル。引退馬の牧場計画も
岡田さんにとって印象に残る一幕もあったそうだ。
「(競走馬を育ててセリに出す高校としておなじみの)静内農業高校の生徒が先生役になり、子供たちに『馬はどんなイメージか?』と質問したんです。私は『かわいい』とか『大きい』といった答えを予想していたら、ある生徒が『サウンドトゥルー』と答えてくれたのは、本当にうれしかったですね。サウンドトゥルーは、地元の子供たちにもウチのスタッフにも人気で、夏はファンの方が絶えず、ホント、毎日来てますよ」
ニンジンが大好きで、あげると喜ぶという。みんなのアイドルといってもいいかもしれない。
岡田スタッドには、07年の有馬記念をはじめ中山巧者として知られるマツリダゴッホも、昨年から繋養され、サウンドトゥルーとは別々に暮らしているという。
「ゴッホはサウンドトゥルーとは対照的で噛み癖がひどくて危ない。見学は可能だけど、12時までの1時間だけ。もちろん、スタッフの付き添いです。今は別々ですが、引退馬の牧場を造る計画を温めているので、それが実現したら、私たちもファンの皆さんも楽しみですよね」
岡田さん、その計画ぜひ実現してください! 個性派ぞろいの岡田スタッドに注目だ。