馬好き小学生におすすめ 次の名馬を育てる厩舎スタッフというお仕事
公開日:2024年12月13日 17:00 更新日:2024年12月13日 17:00
厩務員にはどうしたらなれるの?
中央競馬の競馬場は全国に10カ所。馬がレースに出走する場合、遠征先に同行し馬のお世話をするのが厩舎スタッフの人たちだ。馬と寝食を共にする縁の下の力持ち。この人たちの努力なくして日本競馬は語れない。一般からの門戸も開放しているが、勤務内容や待遇はどうなっているのか。JRAは仕事内容を知ってもらおうと、中学生を対象にした厩舎での仕事体験「夏休みキッズチャレンジ」も開いている。
厩務員とはカイバ付け(エサやり)など馬のお世話係のこと。中央と地方では異なるが、JRAの場合は競馬学校厩務員課程(厩務員と調教助手)の6カ月の教育期間を経て、希望する厩舎に就職する。競争倍率は10倍程度とされる狭き門で、春と秋に合計60人程度が合格する。
受験資格は2018年まで満28歳の制限があったが、現在は年齢制限を撤廃。ただし、1年以上の騎乗経験と単独騎乗による3種の歩法(常歩・速歩・駈歩)ができることが条件。一般的には学校の馬術部経験者の応募が多いが、JRAは中学校卒業以上の人を対象に無料の「初心者乗馬講座」(中山、東京、京都、阪神で1年間)を開催していて、フルで参加した場合は100回程度の乗馬練習ができる。
「厩舎スタッフとひと口に言っても、昔と今ではずいぶん状況が違います。昔は親の仕事を継ぐ人が多かったのですが、今は競馬学校で学んで厩舎に勤める道ができました。その意味では門戸が広がっていると言えるでしょう」(民放競馬記者クラブ会友で長く競馬実況を務めた長岡一也氏)
競馬学校は入学金3万9000円、学費12万円のほか、食事代などで計45万円ほど。厩務員課程生も毎週検量があり、おおむね体重60キロ以下が求められる。
ちなみに、同じく競馬学校に入学する騎手生の上限体重は49キロで、いかなる理由があっても例外は許されない。
朝は何時起き? 一日のお仕事の流れは
季節にもよるが、中央と地方に限らず、厩務員の朝はめっちゃ早い。
例えば、大井競馬場を主戦場とする「森下淳平厩舎」の出勤時刻は午前2時。朝というか、まだ真夜中だ。担当馬の状態をチェックしながら馬装をして調教準備に入る。2時20分には馬にまたがり、調教のためのウオーミングアップを30分ほど。その後、カイバづくりとカイバ付けを行い、8時10分には馬房清掃とミーティング。9時には朝の仕事が終了する。
小休止の後、13時半に再出勤。馬体の手入れ(ブラッシング)などをやって15時に終了となる。
JRAの厩舎もだいたい同じだが、レース日(土曜、日曜)は午前3時に出勤。6時に調教が終わると、カイバ付けを行い、7時にはレースに出走する担当馬を連れて競馬場へと向かう。到着後は休憩を挟みながら、レースに向けて準備。レースの60分前には装鞍所に集合し、馬体、蹄鉄の検査、馬体重の測定を受ける。パドックで馬を引くのも厩務員などの仕事だ。レース会場の場所にもよるが、馬運車に馬を乗せてトレーニング・センターに着いたらカイバ付け、ケガの確認などを行ってようやく解放となる。
「昔の厩舎は徒弟制の激務のイメージがありましたが、近年は就労時間や最低賃金など法律にのっとっています。確かに朝は早いが、終わるのも早いので負担は他の職業と変わりません。休日もローテーションを組んで確保されていますので、安心していいでしょう」(長岡氏)
勤務地はどこになるの?
JRAの場合、茨城県美浦村と滋賀県栗東市の2つあるトレーニング・センターのどちらかが勤務地となる。
美浦トレセンは約2000頭を収容可能で、日本最大規模(約224万平方メートル=東京ドーム約48個分)の施設。
一般開放もされていて、11月から2月は9~16時(休苑日は月曜、火曜、年末年始)となっている。また、中学生とその保護者を対象に競馬に関する仕事を見学できる「トレセン職場見学ツアー」も開催している。
一方、栗東トレセンは約150万平方メートル(甲子園球場約40個分)の敷地に6つのコースと坂路コースがある。ここで調教師約100人、調教助手約950人、厩務員約250人が働いている。
「トレーニング・センター内には記者らメディア関係者の宿泊施設もあって、朝5時から5時半には始まる馬の調教に合わせて、よく早起きしたものです」(長岡氏)
厩務員がもらえるお給料は?
調教師の給与が馬主からの預託料と歩合給なのに対し、厩舎スタッフは日本調教師会が定めた基本給が月15・2万~36・7万円。ほかに調教手当の月2・2万~8・4万円などの手当が付く。ボーナスは6月と12月の2回だ。
平均年収は約400万~約800万円といったところのようだ。「令和5年分 民間給与実態統計調査」によると、給与所得者5076万人の平均給与は460万円となっている。
賞金の5%がドン! 年収は?
JRAのレース賞金は最低の未勝利戦でも1着550万円、重賞ともなればGⅢで約3000万~4000万円、GⅡで約5000万~7000万円、最も高額のGⅠジャパンカップと有馬記念なら5億円だ(2着はその40%、3着25%、4着15%、5着10%)。
この賞金のうち馬主が80%、調教師が10%を受け取り、残り10%を厩務員と騎手が5%ずつ分け合う。これは「進上金」と呼ばれる成功報酬で、仮に担当する馬が有馬記念で優勝したら2500万円(ポルシェ1台分)がドンと入ってくる。
先ほど厩舎スタッフの年収が約400万~約800万円と説明したが、この進上金も入れると1000万円超も夢ではない。進上金は、厩舎によって担当以外の厩舎スタッフ全員(12人くらい)のお金をプールして分配する方法もある。一般的には1人で2頭の馬を担当している。
5月の日本ダービーでダノンデサイルの手綱をとる原口政也厩務員は栗東の安田翔伍厩舎の所属。若い頃に通算26戦14勝(GⅠ7勝)で、獲得賞金18億3518万円のテイエムオペラオーの担当だったことでも知られる。単純計算だと進上金は9000万円ほどだ。
厩舎スタッフはほかにどんな人がいるの?
厩舎で働く人には、馬のお世話をする厩務員のほか、「持乗調教助手」と「攻専調教助手」がいる。
持乗調教助手は、厩務員が調教助手も兼ねること。調教師の指示を受けて1日1~2頭の担当馬に乗る。また、攻専調教助手は厩舎全体の馬を1日に6~7頭も乗ることがある。
「厩務員になる人たちは将来的に調教師を目指す人がかなりいます。もっとも、調教師の資格を得て厩舎を持つとなると、馬の世話だけでなく、経営や生産牧場者との付き合いなど見た目以上に苦労が多い。それでも将来、厩舎スタッフとして働きたいというお子さんたちには、まずは『馬を好き』になってもらい、厩舎を経営するなどの『夢を持って』もらいたいと思います」(長岡氏)
来たれ、未来のホースマン。