2025クラシックへの道

【函館2歳S】気になる2頭の生産者を直撃

公開日:2024年7月12日 17:00 更新日:2024年7月12日 17:00

ヤンキーバローズ 「エピファ産駒は〝三振〟か〝ホームラン〟。どっちかな?」

 JRAで2歳新馬戦がスタートして1カ月あまり。来年のクラシック候補生が続々と名乗りを上げる中、北の大地・函館では13日、2歳戦最初のGⅢ函館2歳Sが行われる。ここで賞金を加算できれば年末の2歳GⅠに向けて弾みがつくし、来春に向けても展望が広がる。そこで、週末版競馬面の人気コラム「クラシックへの道2025」を拡大。気になる2頭について、それぞれ生産者に聞いた。

「母系はスピードタイプで仕上がりが早いから、期待しているんです」

 3週目の函館芝千二でゲートが開くと、タイミングが合わずに序盤は押っつけながらの追走。3番手から直線でかわしにかかると、内にモタれる面を見せながら②着馬に1馬身差をつけてねじ伏せた。粗削りなレースぶりは、かなりの能力を感じさせる。エールを送る富田牧場の富田秀一さんが「期待」するのも当然だろう。

「母キャンディバローズ(父ディープインパクト)は15年の札幌芝千五の新馬戦で1番人気ながらクビ差敗れると、2戦目の同条件はレコード勝ちでした。あの記録は、まだ破られていませんからね。母系に受け継がれるスピード能力は相当に高いし、実際、母は続くGⅢファンタジーSも勝ちました。それにウチの馬は、函館に縁があるのもいいと思います」

 伯母ファインチョイス(父アドマイヤムーン)は函館でデビュー勝ちを決めると、函館2歳Sも連勝。昨年のこのレースの覇者ゼルトザームも、富田さんの生産馬だ。

 縁で勝てるほど競馬は甘くないが、仕上がりの早さは間違いない。その母系にエピファネイアを配合した。

「母系は仕上がり早でも早熟ではなく、古馬になっても勝ち星を挙げているのが魅力です。そこにエピファネイアの爆発力や成長力が重なってくれれば……。そんな期待もあるけど、いかんせんこの種牡馬の産駒は“三振”か“ホームラン”みたいな印象もあるからね。どっちに転ぶかな?」

 エピファネイア産駒は今年上半期のGⅠを4勝した。その内訳は桜花賞・ステレンボッシュ、ヴィクトリアM・テンハッピーローズ、ダービー・ダノンデサイル、宝塚記念・ブローザホーンと千六から二千四百まで幅広い。今年の流れと初戦のレースぶりを加味すると、この馬が“ホームラン”の可能性はあるだろう。

「そうだといいね。ただ、シーサイドファームに育成に送り出すまでの雰囲気や放牧地を走るストライドはホント、よかった。上村先生の評価も高いようだから、うん、期待はしています」

 今週は函館のウッドコースで函館記念に出走するデビットバローズと併せ馬を敢行し、格上古馬の胸を借りて互角の動きを披露。5F69秒6―1F12秒5で併入した。1度レースを使われたことで、より仕上がりが進んだ印象を受ける。状態は万全だ。縁起のいい函館で生産者として重賞連覇の可能性もあるデキといえる。今週は現場で声援を送るのか?

「うーん、どうかな。体が空けば行きたいけど、スタッフと相談してからだね」

 記者をはぐらかしながらも笑顔がみえる。今年ブレークしているエピファ産駒だけに、“ホームラン”に期待か。

エメラヴィ 「生まれたときは顔がウンチだらけ。愛称は『うんちゃん』です」

「とにかく無事に。新馬戦の前は、ただただその思いでしたが、まさか勝っちゃうとは、本当に驚きました。この仔を取り上げた従業員も喜びつつも、ビックリしていたんです」

 6月9日の函館芝千二でのレースぶりを笑顔で振り返るのは、桑田牧場代表の桑田美智代さんだ。ゲートをスムーズに出ると、外から先手を主張する馬を先にやってインの3番手で流れに乗ると、直線では先行2頭の外に持ち出して、楽に抜け出す横綱相撲だ。

 手綱を取った横山武は「いいポジションを取れてすごく乗りやすかった。外へ逃げるようなところはあったが、新馬戦としては上々の内容でした」と高評価。その横山武が騎乗した馬はほかにもここにエントリーしているが、継続騎乗はこの馬だけに、能力を感じ取ったのは間違いない。

 そんな2歳の重賞に王手をかけた牝馬は、難産だった。桑田さんが「とにかく無事に」と強く願ったのも、それゆえだという。

「胎盤の中でへその緒が切れていまして、生まれてきたときは顔がウンチだらけで呼吸が危なかったので、すぐに酸素吸入をしたんです。そのかいあってピンチを乗り越えてくれました。でも、あんなコトがあったので牧場にいたころは、私も従業員も『うんちゃん』とかわいがっていたんです」

 シンボリクリスエスの血を引く母ショウナンワヒネの産駒は地方で星を伸ばしているようにダートでの良績が目立つが、父がオルフェーヴルのこの馬は芝で結果を出している。

「ディープブリランテやダイワメジャー、ブラックタイドなどを種付けしたきょうだいも芝での活躍を願っての配合でしたが、芝では思うような結果が出ませんでした。それで悩んで託したのが、オルフェーヴルでした。私が好きな種馬なんですよ」

 オルフェの産駒は気性がネックになることがある。この馬も、デビュー前の調教では外に張るしぐさを見せていたが、レースではそこまでひどくなかった。

「育成時代も、担当者からは手がかかったということは聞いていません。体の成長がゆっくりだったくらいで、生まれてからはとにかく順調。出産のつらい経験から、ウチにいたころはとにかく手をかけました。その思いが通じて、人に素直になって気性が穏やかなのかもしれません。オルフェーヴルだから、ひょっとすると距離は延びていいかもしれませんが、レースぶりは千二が合ってそうなので、クラシックなんて欲はいいません。やっぱり無事に、です」

 みんなに「うんちゃん」と親しまれた牝馬が、“幸運の持ち主”として羽ばたくか。

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