【日本ダービー・9紙合同特別企画 道は、ひとつじゃない】キングカメハメハ・NHKマイルC
公開日:2024年5月20日 14:00 更新日:2024年6月4日 15:17
【NHKマイルC】異例のローテーションでGⅠ馬に
当時も今も、3歳牡馬の春クラシックは、皐月賞に日本ダービーの2戦だ。ただし、キングカメハメハは2冠を歩むことはなかった。毎日杯を強く勝った後に選択したのはNHKマイルC。競馬サークルの内、外から驚きの声が上がったのは当然だった。
異例のローテーションも、松田調教師にはクロフネにタニノギムレットなどの一流馬を育て上げた経験からくる裏付けがあった。
「キングカメハメハはムダな力を使わず、鞍上の指示を待てる馬。ただ、皐月賞というレースは有力馬が皆、いい位置を取りにきて、ペースが速くなりがち。勝つ位置を取りにゲートから仕掛けて行くような競馬を一度すると、それを馬が覚えてしまう。完成していない時点では良くない」
クロフネ、タニノギムレットも育てた名伯楽が布石を打った
自分流のやり方を貫くため、キングカメハメハを日本ダービー馬にするための布石が府中のマイル戦でもあった。舞台は向正面、ホームストレッチがともに520メートルを超す広いワンターンのコース。
松田調教師は「向正面をリラックスして走れ、直線も長い。追い出せる進路、自分のフォームが決まってから追えばいい。千六を使うことでダービーは位置も取れて、馬がスムーズに運べる。アンカツさんもダービーをイメージして乗れますからね」とプランを明かす。
そして、再度、手綱を託されたその安藤騎手は心中をこう振り返る。
「正直、マイルという馬ではないからね。“負けるならここかな”という思いもどこかにあった」
しかし、心配はすぐに杞憂に終わる。ゲートをいい形で出ると先行勢を見る9番手。馬なりで好位置にいた。直線で外に出す頃には、明らかに一頭だけ手応えが違い、坂を上がった残り1Fでは独走態勢に入っていた。そこから5馬身差。これが初のマイル戦とは思えない強さで、GⅠタイトルを手中に収めた。
「一戦ごとに良くなったけど、馬の成長度が違ったね。行きっぷりがいいし、楽勝だった。この時点で“絶対にダービーは勝つ”と思ったね」
ダービーは2度騎乗。前年にザッツザプレンティで③着もあった安藤騎手の自信も一気に深まった。