「康太は僕にも追い風を吹かせてくれた」

　ギュッと握った左拳で５度ものガッツポーズ──先週、日曜京都の競馬中継を見ていた方は、気づいた方もいるだろう。

　気持ちのこもった①着入線は３Ｒ。友道厩舎のデルマアートマンを５馬身差の逃げ切り勝利に導いた荻野琢真だった。そして、《写真》にあるように天を仰ぐシーンが続き、検量室前の①着の枠場へと戻ってきた。

　荻野琢は競馬学校の第２３期生。先日、落馬事故で逝去した藤岡康太さんと同期でもあった。

「友道厩舎の馬に乗ることになったのは康太がきっかけなんですよ。８年前の北海道でゲート試験の相手として、康太に声をかけてもらい、そこから調教を手伝うようになったんです。康太は友道厩舎が勝ったら、すごく喜んでいた。康太のお陰で縁があった友道厩舎の馬で勝ちたい気持ちが強かったんです。デビュー前の調教から乗っていた馬でもあったので」

　こう教えてくれた。早世の同期へと追悼を表すガッツポーズでもあったのだ。

　実際に、返し馬は実に入念だった。気が悪い面のある同馬を向正面でしっかりとスクーリングさせ、気持ちを整えている姿が印象的。勝ちたい気持ちが伝わるレース前でもあった。

「２走前がゲートで突進して、その影響が合った感じ。難しい馬ですが、スッと出てくれた。僕にも追い風を吹かせてくれたんだと思います」とハナを切れたことを回顧し、偲んだ。

　先日、マイラーズＣをソウルラッシュで制した団野は「思うように気持ちをつくることができずレースを迎えることが多々あります」と正直な胸の内を吐露している。

　今、ジョッキーは悲しみを背負い、それを乗り越えるためにプロとして全力で騎乗している。いち競馬ファンとして、優しい声援を送りたい。