福島県南相馬の石橋牧場で繋養
「人の言うことが分かるんだよ。この馬を世話するのは、ほんと楽しい」
新潟2歳Sは2002年に距離がマイルに延長されると、クラシックに直結するようになる。13年の勝ち馬ハープスターは桜花賞馬で、札幌記念Vから凱旋門賞にも駒を進めた。15年にこのレースを制したのがロードクエストだ。翌年はNHKマイルCで②着と惜しくもGⅠタイトルを逃したが、秋にはGⅢ京成杯オータムHをゲットし、18年にはGⅡスワンSで3つ目の重賞タイトルを獲得した。今どうしているのか。
23年10月に地方競馬の登録を抹消されたこの馬の行方を探すと、福島県南相馬市にある石橋牧場で繋養されていることが分かった。石橋正男さんに話を聞いた。
「朝は5時から8時まで運動して馬房に戻る。午後4時ごろまでうまやで過ごしたら、夕方に2時間ほど運動するのが日課だよ。ウチは海に近いから風が抜けるんだけど、それでも今年の暑さは異常でしょう。馬は夏バテで目の周りの皮膚がむけるんだ。ウチに移動してきた去年の夏も夏バテの兆候が見えたから、夏は苦手なタイプだね。夏負けの症状以外は、どこも悪くない。脚元も内臓も元気ですよ」
運動の時は、正男さんも一緒に歩くという。
「去勢したんだけど、重賞を3勝したサラブレッドでしょう。最初のうちはうるさかったし、歩くスピードも速い。今年75歳の年寄りには、大変でさ。それで『そんなに速く歩けないから、ゆっくり歩こうね』と毎日毎日声をかけ続けたら、だんだんゆっくり歩いてくれるようになり、おとなしくなってきた。人の言うことが分かるんだよ。この馬を世話するのは、ほんと楽しいね」
2013年3月6日生まれだから、現在12歳。まだまだ元気だ。石橋さんが預かっているのは、この馬1頭のみ。どんな経緯だったのか。
「元々、北海道の中村畜産で仕事をしていたんです。亡くなった社長の中村和夫さんの長男の伊三美さんはロードホースクラブの元代表。その縁で伊三美さんと付き合いがあり、クエストの養老先としてお話を頂いたんです」
中村和夫さんは種牡馬ミルジョージを日本に導入したほか、ホッカイドウ競馬の存続と活性化を願って「モエレ(燃えろの意)」の冠名で多くの所有馬をホッカイドウ競馬からデビューさせている。馬産地日高の重鎮として有名だった。
2年連続で相馬野馬追に出走
南相馬にある牧場といえば、地元で重大なイベントが開かれる。相馬野馬追だ。ひょっとしてクエストも出走したのだろうか。
「はい、しました。去年は僕が乗って。参加する前にはもちろん練習したんだけど、レースさながらの本番は競走馬として現役だったころを思い出したのか引っ掛かる。年齢的に最後と思って出走したけど、ケガをしたら危ないので、今年は息子が乗って参加したんですよ。僕は角馬場程度の運動場で毎日、運動を一緒にするのが一番合ってますね」
一口馬主クラブ・ロードサラブレッドオーナーズが募集した価格は500口で1080万円。1口あたり2万1600円だったが、クラブで所有していた中央在籍時の獲得賞金は2億6704万円で、1口あたりの獲得賞金は53万4080円と回収率は実に24・7倍に上った(大井移籍後は中村伊三美氏名義)。父マツリダゴッホの稼ぎ頭となったから出資者はウハウハだったろう。
「出資者の方が見学に来られましたし、大阪のファンの方は青草を送ってくださいました。その大阪の方は年内に会いに来てくださると思います。個性派種牡馬のマツリダゴッホの産駒で多くのファンに愛される馬を世話できるのは幸せですよ」
石橋さん、体に気をつけて頑張ってください!