「相馬野馬追に参加。大勢の観客にもどっしりと落ち着いていました」
アイビスサマーダッシュは、日本で唯一の芝の直線千メートルコース(新潟)で行われる。そんな名物レースを2019年に制したのが、ライオンボスだ。5月に同じコースの邁進特別を15番人気で勝ち上がると、中1週で臨んだ同コースのOP韋駄天Sも逃げ切りV。直線競馬を3連勝で重賞もゲットした。その後、アイビスSDは5年連続で出走し、20年と21年は②着。韋駄天Sは20年に連覇するなど、「千直競馬の王」として君臨した。いまどうしているのか。
「千直の王」は23年のアイビスSD⑯着を最後に南関東の川崎に移籍したが、全盛期の快速ぶりは影を潜め、地方でも掲示板に載ることができず、昨年8月の盛岡の重賞OROターフスプリント(ダ千メートル)が引退レースとなった。昨年10月に地方競馬の登録も抹消され、どこにいるのか。その居場所を探すと、福島県飯舘村の馬・デイズクラブに繋養されていることが分かった。管理する佐藤弘典代表に話を聞いた。
「現役時代の馬主さんから『ウチで余生を送らせたい』というお話をいただいて、地方競馬を引退してこちらに移動してきました。最後のレースで体を傷めたようで、疲れもあったことから、当初は養生していました。おかげさまで疲れも癒え、痛がっていたところもだいぶよくなっています。まだベストな状態ではありませんが、レースに出るわけではありませんからね。普通にのんびり過ごすには、まったく問題ありません。とても元気ですよ」
グレイスフルリープらと毎朝2時間放牧
毎朝、放牧で仲間と過ごしているという。
「放牧は毎朝5時から7時の2時間ほどです。日中はこちらも32度くらいまで気温が上がるので、熱中症が怖い。北海道の育成牧場などでは夜間放牧も行いますが、夜はほかの野生動物や車などの人工的な音に反応して馬が驚くと、ケガをしやすい。そういった事情から放牧は朝の2時間です。青草を食べたり、寝っ転がったりして楽しんでいます。放牧を終えて馬房に戻ると、シャワーを浴びて体をチェックしてカイバもペロリ。食欲旺盛で何よりですね。ご飯の後は、扇風機の前でボーッとしたり、うとうとしたりです。ライオンボスのほかにも7頭ほど繋養していますが、どの馬と放牧するかは、一頭一頭の様子や体調によって変えています」
ほかにどんな馬がいるのか。
「引退した競走馬はホープフルS②着でダービーにも出走したマイネルスフェーンやJBCスプリントを勝ったグレイスフルリープなどで、ポニーもいます。馬は群れで生活する動物で、1頭だと寂しがりますから、3頭か4頭で放牧することが多いですね。そうすると、ストレス発散になって、適度な運動にもなります。余生牧場ですから、それくらいの運動量がちょうどいい」
今年5月、現役を引退した「千直の王」にとって一世一代の晴れ舞台があったという。
「地元の伝統行事『相馬野馬追』の行列に参加したのです。私がライオンボスに乗り、息子がマイネルスフェーンに乗りました。暑い真夏の開催から5月24~26日に変更され、会場の雲雀ケ原祭場地は震える寒さ。甲冑の下は裁着袴1枚で、私は風邪をひきましたが、2頭とも鞍下に汗をかいたくらいで、まったく疲れ知らず。息子と一緒に野馬追を終えることができてよかったですね。大勢の観客にもどっしりと落ち着いていて、人に穏やかなのもいいですね」
佐藤さんの牧場にいる馬はどの馬もおとなしくて、手がかからない。ポニーなどと放牧しているときは、仲良くしているという。
さて、「千直の王」は新潟の直線競馬で13戦4勝②着3回とコース適性を見せつけた。個性派だけに、ファンが訪れることも少なくないそうだ。
「新潟から来られる方が多いですね。ウチの牧場から新潟までは車で2時間半ほどで、そんなに遠くありませんから。地理的な事情もあるのでしょうが、それにしてもたくさんの方に愛された馬に携われるのはうれしい。みなさん、現役時代のことを楽しそうにお話しされるんですよ」
これから夏休み本番。「千直の王」を一目見ようと、さらにファンが相次ぐかもしれない。のんびりした“王様”の現在の姿に癒やされること間違いナシだろう。