競走馬はアスリート。芸術的な走りの裏には極限を尽くすがゆえの故障が常について回ります。
我々も現場に張り付いてトレセンや競馬場で取材をしていると、競走馬のその瞬間に立ち会うことも珍しくありません。
先日も追い切り中に倒れた馬が2頭出たほど。それほど過酷なトレーニングやレースを毎日こなしているということに他なりません。
ヒヤッとしたと言えば土曜京都11R・アルデバランSに出走するブライアンセンスの前走、ラジオ日本賞④着時。入線した後、ジョッキーが下馬して戻ってきたからです。この事象は往々にして故障を伴うもの。場合によっては競走生命に関わることも少なくありません。
幸いにして今回のケースは「脚をぶつけて歩様が悪くなったので、大事を取って」(田中調教助手)のもの。それでも大きなケガに至らなかったのは手綱を取った斎藤騎手の好判断だったとも言えるでしょう。
ただし、デリケートな箇所だったために陣営はしっかりと休ませて立て直すことを決断。その甲斐もあって帰厩後は歩きもスムーズになり、ウッドの初時計から5F65秒8―37秒1、1F11秒8をいきなりマークできるほど回復。1週前もウッド5F65秒5―37秒3、1F11秒9と2週連続で好時計をマーク。
今週こそ遠征を控えているため、6F82秒7―37秒9、1F11秒8と数字はそう目立たないものでしたが、力強いフットワークで駆け抜けました。
「放牧明けの今回は調整法を変えてみたのもいい方に出たようです。9週連続勝利は先週で途絶えてしまいましたが、またここからリスタートさせたいですね」と話す斎藤誠師の笑顔からも回復は明らかです。ここで好結果を出して再びダート重賞戦線を賑わすとみて◎を打ちます。
「ベガはベガでもホクトベガ!」
93年エリザベス女王杯でホクトベガが①着でゴールに飛び込んだ瞬間の実況です。当時、浪人生でフラフラしていた自分にとっては衝撃的であり、今でも予想の根底に根付いています。
ベガはバリバリの良血馬で鞍上が武豊。牝馬3冠にリーチをかけていました。対して、ホクトベガは父がダート血統でベテランの加藤和を配したいぶし銀のコンビ。春2冠でベガに大きく後塵を拝したホクトベガに勝ち目はなさそうでしたが、見事にリベンジ。この“逆転劇”こそが競馬の醍醐味ではないでしょうか。
かつて作家の寺山修司氏は「競馬が人生の比喩なのではない、人生が競馬の比喩なのである」と評したそう。馬も人も生きている間はいつかの大逆転を狙っています。雑草でもエリートを超えるチャンスはあるはずと、きょうもトレセンを奔走しています。