あの馬は今こうしている

2009年スプリンターズS覇者ローレルゲレイロ

公開日:2024年9月27日 17:00 更新日:2024年9月28日 10:58

「エーシンジーラインと一緒に牧草を食べたり、走ったりしています」


 2009年の高松宮記念を制したローレルゲレイロは、同じ年のスプリンターズSでビービーガルダンをわずか1センチのハナ差退け、春秋スプリントGⅠをモノにした。その実績で11年から種牡馬入りしたが、種牡馬も引退している。今どうしているのか。

アブや昆虫もお構いなしでマイペース

 優駿スタリオンステーションで種牡馬になったローレルゲレイロは、11年の初年度は41頭に種付けした。順調に繁殖牝馬を集め、15年には79頭に増えたが、その後は人気がふるわず、22年の3頭を最後に種牡馬を引退。いまは栃木県那須塩原市にある「BRAVE STABLE」にいることが分かった。代表の八重樫美織さんが言う。

「ウチは、引退した競走馬や猫などの動物たちがゆっくりと楽に余生を過ごす余生牧場で、会員さんの中にゲレイロさんの大ファンがいて、種牡馬引退後の動向がぱったりと途絶えたことに不安を感じて、『捜してもらえないか』と相談を受けました。それで、牧場を開くキッカケとなったスエヒロコマンダーのオーナー・小泉(賢悟)さんにお話ししたところ、生まれ故郷・北海道の村田牧場にいることが判明。村田さんを紹介していただき、余生牧場の活動内容などを説明すると、『それならぜひ』ということでウチで預かることが決まったのです。昨年10月13日に馬運車で那須にやってきました」

 村田氏と話がついたのは昨年8月。そこから2カ月を要したのは馬運車の手配がつかなかったためだという。

「大ファンの会員さんとは『何とかなるから気長に待とう』と話していたら、馬運車が決まり、輸送日が10月13日に決まったのはただならぬモノを感じます。ゲレイロさんにとって、13はとても関わりのある数字なんです」

 09年に勝利した高松宮記念とスプリンターズSは、ともに7枠13番だった。ついでにいうと、3歳馬の頂点を争う日本ダービーも7枠13番、13番人気で⑬着だ。この運命的な馬番はほかにもあって、07年に3歳で挑んだマイルCSや09年阪急杯、10年フェブラリーSと合計6回。競走馬のキャリアは全31戦だから、およそ5分の1だ。

 さて、最近の生活はどうなのか。

「おかげさまで脚元や内臓などは問題なく、元気です。引退した競走馬はほかに9頭いて、12年の小倉大賞典を勝ったエーシンジーラインと相性がよく、一緒に牧草を食べたり、走ったりしています。那須はアブをはじめ昆虫が多く、嫌がる馬も多い中、ゲレイロさんはまったくお構いなし。今は夕方4時から翌朝10時ごろまで夜間放牧をしています。疲れたり、嫌がったりすると、鳴く馬もいるのですが、ゲレイロさんは鳴きません。集牧の時間になっても、厩舎に帰ろうとせず、放牧地の奥の方で知らんぷりしてマイペースで遊んでいます。それでも私やスタッフに引かれて厩舎に戻ると、さすがに疲れているので、シャワーで汗を流し、カイバを平らげたら、馬房で眠そうにしています」

 秋の気配を感じるようになり、そろそろ日中の放牧に切り替わる。そうなると、朝8時にカイバを食べてから放牧は12時まで。シャワーや馬体チェックなどを受けて、14時ごろ馬房に戻る生活になるという。

 猫は30匹いて、厩舎とは別に猫用の一軒家で世話している。ピーク時は猫60匹のほか、犬もかなりいたそうだが、今、犬はいない。飼育放棄や虐待などのトラブルがあったことから猫の譲渡もしていないそうだ。

 常勤スタッフは、八重樫さんを含めて2人。ほかはボランティアスタッフが2人。4人でこれだけの動物の世話をするのは大変だろう。

「動物もヒトと同じで年をとると、ケガや病気が増えるので医療費がかかります。正直、生活は大変です。スタッフの給料は、私のアルバイト代でまかなっています」

寄付で届く生の牧草やニンジンに大喜び

 そんなギリギリの生活でも余生牧場の運営に力を入れる理由は、競走馬をはじめ動物をめぐる厳しい現状にある。それを知るキッカケが、ネオユニヴァースが制した日本ダービーの観戦だった。

「私はギャンブルと無縁の家庭で育ちましたが、生でサラブレッドを見たら、その美しさに感動しました。それで競走馬について自分なりにいろいろと調べたら、寿命をまっとうできる競走馬は数%。ほとんどが残念な結末になる現実を知りました。それで牧場で働いて馬の飼育法などを身につけながら、安心して余生を過ごす方法がないか探していたのです。そんなとき、スエヒロコマンダーのオーナーの小泉さんに出会うと、私の話に共感してくださいました。善は急げで牧場の土地を探し、那須で開場したのが14年前です」

 八重樫さんが競走馬の行く末を案じるのも当然だろう。ローレルゲレイロは種牡馬引退後、生まれ故郷の牧場で引き取られていたが、種牡馬になりそうなGⅠ馬や重賞を連勝した馬でさえ行方不明になるケースがあるのは競馬ファンの間ではよく知られる。ましてや成績がパッとしない馬はなおさらで、八重樫さんの牧場には荒尾競馬場の廃止とともにオーナーが手放して移ってきた馬もいるという。見捨てられた馬の飼育にかかる費用はどうするのか。

「オーナーから預託された場合は、預託料を頂きますが、オーナーが手放した馬は、こちらで新しいオーナーを探し、見つからなければ活動に賛同した方々からの寄付で治療費やエサ代、飼育に必要な消耗品代などを工面します。それが余生の会で、1口3000円。その会費で猫もカバーするので、活動はやっぱり大変。ですから、会員さんが生の牧草やニンジン、ペットシーツ、猫用ドライフードなどを送ってくださると、とても助かります。ゲレイロさんも生の牧草やニンジンが届くと、喜んで食べるんです」

 八重樫さんとスタッフはつらい顔を見せずに笑顔で世話をする。ゲレイロはじめどの馬もリラックスした表情なのは、その気持ちが伝わっている証拠だろう。 

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