(2月21日分から続く)
さて、これほど熱く実況への思いを書いてきたわけですが、実はもうひとつあるあるくんにはあるんです。注目しているものが。
それはスターター。実況以外にも何か着眼点をみつけなきゃいけない。そう考えてたどり着いたのがスターターでした。
「スターターって、旗を振ってゲートを開けるだけじゃないんです。ゲート裏には他に3人いて、合計4人で発走業務を行っているんです」。
つい、台に上がる人に我々は注目してしまいますが、確かに後ろで枠入りを促している方々がいますよね。また「馬場入場の時には横について、馬にクセがないか、勝負服は合っているかなどチェックしているんです」。言われてみれば…。
「人それぞれに旗の振り方も違うし、ゲートに入るのをごねてしまう馬へのアプローチの仕方、動きの特徴や所作を観察しています」。あるあるくんの手帳には、週末の開催各場のスターターと実況が誰なのか、しっかりと記録されています。
「競馬ファンっていろいろなオタクがあって、例えばステイゴールドが好きだからとその血統に注目したりしますよね。でも全てのレースに出ているわけではない。でも、スターターは必ずどのレースにもいるんです」。確かに!
あー、今回の取材で私は何度「確かに」と言っただろう。JRAのスターターはは現在13名。獣医や馬術の成績優秀者、または競馬学校の教官という内訳になっているそう。「獣医だからできること、馬術の経験があるからこそできること、それぞれ違うんです。安全で公正なレースのためにその人員配置に関してもよく考えられているようで、『本当に素敵なハーモニーだと思うんです』」と熱く語ってくれました。
そんな思いから、あるあるくんはSNSでスターターについての情報を発信しています。いつか実際のスターターの方の目に留まるといいなと思いながら。
「これは医者も同じなんですけど、特に産婦人科は赤ちゃんが産まれて1000回のありがとうを言われても、1回の失敗でそれがすべて消えるんです。失敗は絶対にダメ。スターターのみなさんは、ちゃんとレースが成り立つことが当たり前の中で淡々とこなしています。誰もほめてはくれないし、何かあったらすぐにたたかれてしまう。それって今の自分の境遇と一緒だなと思って。もっとスポットを当ててほしい。SNSの発信はそんな思いからのものなんです」。
たっぷりと1時間半。記録したノートに密度が詰まった字がびっしりと書かれています。あるあるくんの熱量に関心しながら、これまでになかった視点で話を聞くことができて、とても楽しかったという印象です。
これだけの思いを込めて競馬と向き合っている姿勢は学ばなければならない点もあるかと思います。もしかしたら、この先あるあるくんはお仕事として競馬に携わる日が来るかもしれません。きっとこの熱量は私だけではなく、たくさんの関係者に伝わっているでしょうから。
あ、そうそう。なぜか青木孝文調教師との食事会などの誘いはいつもあるあるくんからくるんですよね。毎回楽しい時間を過ごさせてもらってます。
マイネルグロンで中山大障害を制した時、「自分はまた一般席で実況をしていました。最後これはマイネルグロンが勝つなって分かってからは泣いちゃって。で、また変な人だと思われたなって思ってます」。
実際、その実況を聴かせてもらいました。はっきりした明瞭な声、しっかりと馬を追っていて、そのシーンを容易に思い浮かべることができます。さらにいいのは一般席だからこそ周りのファンの声も入ってきて、むしろ臨場感はこちらの方が上とも感じました。応援している厩舎でもあり、感極まるのも仕方ありません。
さて、マイネルグロンも最優秀障害馬にも選ばれたことですし、また青木調教師にお話聞きに行こうかな。コロナで少し遠くなってしまったかもしれない縁をまたあらためてつないでくれたのもあるあるくんです。いろいろな人から声がかかるそのキャラクターもまたあるあるくんの魅力なんだと思います。
さあ。次はいつ飲み会の誘いが来るかな?と楽しみに待っているところです。
競馬キャスター
テレビ東京の「土曜競馬中継」などでリポーターを務め、競馬サークルに幅広い人脈をもつ。YouTubeの「日刊ゲンダイ競馬予想」で武田、大谷記者とともに出演。また、毎週水曜には「目黒貴子のアツアツ交遊録」を連載中。