酷暑の夏をサラブレッドはどう乗り切るか。JRA、厩舎が行う暑熱対策の創意工夫
公開日:2023年8月2日 14:00 更新日:2023年8月2日 14:31
先週の札幌では34.4℃の暑さ
今夏も日本各地で猛暑となっている。
競馬開催日も真夏日を越えて猛暑日となることも多く、3週前の7月16日、中京では気温36℃まで上がり、同日の福島は35℃を記録している。
先週もそう。土曜札幌では歴代17位となる34・4℃(石狩地方・札幌観測所)まで上昇した。北の地で暑ければ、本州は当然。日曜のアイビスSDが行われた新潟は34℃。その千直重賞で1番人気だったファイアダンサーは、テンからついて行けずに不可解な最下位。レース後、鈴木慎厩舎のSNSより「レース後は熱中症のような症状が見られ、暑さに負けてしまったようです」とアナウンスがあった。梅雨~夏場はこの熱中症が敗因となるケースが断然増える。
馬への暑熱対策。JRAでは数年前から取り組む。競馬場でよく見るひとつが、馬用シャワー(馬体冷却用シャワー)だろう。レース直後に検量室前で脱鞍した馬達を距離20㍍ほどのシャワーに通すもの。大きな馬体を全身効率よくクールダウンできるため、厩舎スタッフには概ね好評だ。
同時に、競馬場では装鞍所、パドック、そしてレース前の待避所にドライミストが設置された。これは気化熱冷却を利用したもの。超微細な霧状水滴を噴出し、気化することで温度が下げる。レース前の消耗を減らす狙いだ。さらに、氷水や、競馬場の馬房にもエアコンは設置されている。
トレセンの厩舎にエアコン設置、調教内容にも知恵を絞る
競走馬の拠点は美浦、栗東の東西トレーニングセンターだが、ここでも暑熱対策は練っている。ひとつ、季節により調教時間が変わる。これは周知のとおりだろう。
関西馬の拠点、栗東トレセンでは冬場は7時の開門。日の出の時刻と平行して開門時刻は早くなり、宝塚記念が終わると夏場は一年で一番早い5時開門。涼しい時間帯にトレーニングを積む。
各厩舎、それぞれ暑さ対策に知恵を絞っている。
トレセンの調教時間は基本的に4時間。7時に開門すれば、11時でコースが閉まる。前後半の2時間で担当者ひとりに対して2頭いる担当馬を1頭ずつ調教していく形だが、夏場はできるだけ涼しい時間帯に調教し、時間も10~20分と短縮。上がり運動の時間を変えて、調整している。
また、厩舎スタッフ総出のチームプレイで効率化を図り、1頭目が調教を終えて厩舎へ戻ると同時に、次の2頭目が出発できるように準備。調教ルーティンのコンパクト化を図ったりする厩舎も。極力、日陰となるルートを歩かせる厩舎もある。
「馬房の水桶の水を切らさないようにする」、「夏場は水に混ぜる電解質(イオン)を増やしている」はある厩舎スタッフ。毎年の創意工夫の中で調教は行われている。
厩舎自体も大きく変わった。最近の厩舎は馬房の屋根が高く、熱がこもりにくい構造となっている。そこに、さらに馬房前や馬房にミストをつけ、送風機で循環させる。快適に過ごす環境をつくる厩舎がほぼマストとなってきた。また、厩舎ひと棟が空調設備、いわゆるクーラーが設置される厩舎も増加。もちろん、これも暑熱対策の一環。いい状態で競馬へ出走させるための調教師の初期投資のひとつでもある。
レース前にも各陣営、対策は行っている。
あるトレーナーは「装鞍前に水で体を冷やしたり、首筋に水をかけ、扇風機で冷やしている」と教えてくれた。
一方で、ある調教師からは、こんな意見も耳にした。
「暑熱対策は当然、大切だけど、暑熱順化ということも大事。朝早い調教と違って、競馬の時間帯は気温が上がる。暑さに慣れさせる意味で、あえて後半の時間帯に運動、調教する馬をつくる。もちろん、調教後はすぐに厩舎へ帰し、水で冷やすようにしている」
「普段の気温とギャップをつくらないよう、厩舎の馬用クーラーは設置しなかった。ミスト、送風機で風通しのいい環境で過ごしてもらう」
日中に競馬開催が行われる以上、馬に順応させるのも技術のひとつということ。一頭、一頭がオーナーから預かった大切な馬だ。いかに猛暑の夏で結果を出すか。各厩舎、思考を凝らして競馬に臨んでいるから、より一層の〝熱い〟声援を送りたい。