この世を去った高松宮記念馬アドマイヤマックスを担当者が偲ぶ(ネットオリジナル)

公開日:2023年2月22日 14:00 更新日:2023年3月10日 11:38

ウイニングチケットも旅立つ

 名馬の訃報が続いた。

 先週の18日、一頭の日本ダービー馬が生涯を閉じた。93年の勝ち馬ウイニングチケットが疝痛により、繋養先の「うらかわ優駿ビレッジAERU」で旅立った。33歳だった。

 ウイニングチケットは若い世代には「ウマ娘」の登場キャラクターで有名。「ウマ娘プロジェクト公式アカウント」も追悼の意を表している。

 もちろん、オールドファンには、この勝利インタビューだろう。

「世界のホースマンに、第60回のダービーを勝った柴田ですと伝えたい」

 騎手・柴田政人の心の声だった。ダービー挑戦19回目。長きにわたり苦悩した末に、44歳で掴んだ悲願でもある。ビワハヤヒデ(菊花賞)、ナリタタイシン(皐月賞)とクラシック3冠を分けたスターが豊富な年のダービー馬であった。

 その6日前、北西へ約45㌔離れたビッグレッドファームでも、一頭の名馬がこの世を去っている。05年の高松宮記念を武豊で制したアドマイヤマックスだ。

 サンデーサイレンスの子であり、同世代の産駒にはデュランダル、ゴールドアリュールがいる。タニノギムレットがダービー馬に輝いた世代。

 その中で、アドマイヤの高松宮記念は6歳春での初戴冠。一見、遅咲きのように映るが、実は真逆。2歳時は〝クラシック候補〟の呼び声が高い一頭でもあった。10月京都の新馬戦(芝千六百㍍)を4馬身差で勝ち、続く、出世レースの東京スポーツ杯3歳S(現2歳S)を4角11番手から2馬身半、突き抜けている。

 当時、持ち乗り助手としてデビューから担当した森山哲也厩務員はこう振り返る。

「自分のキャリアが浅かったこともあるけど、味わったことがない乗り味だった。暴れ方ひとつ取っても、とにかく体が柔らかいし、体が沈んだ時の回転力、バネ感が凄いというのかな」

 実際に、重賞を勝つ直前、栗東のCウッドで6F77秒台を記録した。2歳の秋とすれば、破格中の破格。丸みに弾力を兼ねたトモがポテンシャルの源で、また、スラリと鼻先まで伸びた流星、形のいい目からも聡明さも兼ねた馬でもあった。

「人に悪いことをしない賢い馬。競馬まで余計なことをしなかった。グッと集中力が増したね」

 走るサンデーの直子らしい面を持っていた。ただし、クラシックには縁がなかった。トウ骨遠位端骨折。最初は右前肢。復帰が秋となり、セントライト記念②着→菊花賞⑪着。距離も長かったか。

 今度は左前肢のトウ骨遠位端骨折。ここには紆余曲折があった。

紆余曲折の末、掴んだGⅠタイトル

 4歳の復帰戦は安田記念。レコードの②着と好走したが、勝ち馬はあのアグネスデジタル。最後に首差かわされた。秋のスプリンターズSも0秒2差③着。制したのは同期デュランダルで②着は前年の覇者ビリーヴ。今度は同じサンデー産駒に強い馬がいた。またも、相手が悪かったのだ。

 GⅠが少しずつ遠のく中で制したのが6歳の高松宮記念だった。

「前日に雨があり、内めが荒れた。不利だった18番の大外枠が逆によかった。結果的にいいところを通れた」

 2馬身半差の快勝だった。今までの多くの辛酸をなめた分だけ、幸運が後押しするような勝ち方だった。ここでのGⅠ勝ちの結果、〝マイネル軍団総帥〟の岡田繁幸氏に見定められて、引退後に種牡馬入り。セカンドシーズンを送った。

「サンデーサイレンスの走る産駒に携われたことには感謝でしかないです。近藤利一オーナーを始め、橋田調教師、そしてマックスにも」

 森山厩務員はこう話した。

「あの背中を越える馬はまだいないですね。安らかに眠ってほしい」

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