目黒貴子のアツアツ交遊録

〈116〉馬術のカメラマン・カジリョウスケさん(5)

公開日:2025年10月29日 14:00 更新日:2025年10月31日 10:36

(10月22日分から続く)
 さて、カジさんの撮影対象に対する距離感は、第三者的にというところから心の交流が始まってからは、選手とは積極的にコミュニケーションを取り、撮影する自分の存在を無理に消すことなく選手の表情もしっかりとらえるようになりました。

「コロナ前まではそういう撮り方を続けていたんですが、実は最近ははまたある程度の距離感を置くようにしました」。というのも、「特定の選手との交流を密にしすぎると取材する視点に偏りができてしまう。馬術の取材をしている人の数が少ない以上、自分の『馬術』に関する情報発信の影響が大きくなってしまう。だからもう少し客観視したり、今まで話したことない選手とも深く話して向き合ったりしないといけないと思って」。

 確かに競馬ということで考えれば、取材する記者もたくさんいるので、取り上げられる切り口はさまざま。また競馬ファンは広く深いものがあって、取材を受けていない馬でも自分なりの応援馬がいたり、情報が多い分視線もさまざまなところに向かいます。しかし馬術となると、もともとの情報量が限られるので、一人の情報源に大きく影響されてしまう。よりフラットにいろいろな馬や選手に視線を分散させるのもまた重要なこと。カジさんは自分の経験から考えも撮影の仕方もうまく変化させてきているんだなと思います。

 取材に訪れたのはセントライト記念が行われる日の中山競馬場。レースのたびに撮影で忙しくしているカジさんには申し訳ないくらいの協力をしていただきました。

 その中で感じたのは、写真だけではなく、どの方面に対しても真摯に対応しているんだなということ。「お客様ができるだけ観戦しやすくなるように」とファンの目線に立ってスッと屈んで邪魔にならないようにする。ルールを守るのはもちろんですが、その端々に他人に対する配慮がみえてとてもスムーズに取材ができました。今後もいろいろな場面でカジさんの作品を目にすることがあるかと思います。どうぞその美しさや迫力、その奥にある苦悩やたゆまない努力…そんなところにまで思いを馳せてくれたらうれしいです。
(終わり)

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