ジョッキーも千差万別です。繊細な馬を柔らかいタッチで折り合いをつけるテクニシャンもいれば、ズブいタイプを叱咤激励で押し上げていく、いわゆる“剛腕”もいます。
そして、他の騎手が敬遠するほどの歩様の硬さや口向き、気性難を乗りこなす業界的に欠かせないタイプも。
個人的な見解ですが、現役では江田照騎手や武士沢騎手が該当するでしょうか。そのカテゴリーで自分の中で筆頭格だったのが、騎手だった西田調教師の現役時です。
ケイコから気性の難しさを見せたり、歩様が悪く転びそうな馬などを涼しい顔で乗りこなして、上位に持ってきていたからです。
なので、調教師になった今でも、問題を抱える馬には自らまたがって矯正を試みています。
東京10R・クロッカスSのヴェルトラウムはゲートの駐立に課題がありました。そこで師がアプローチしたのは“ゲート内で縛り”です。
ファンには耳なじみが薄いかもしれませんが、トレーニングセンターのゲート内で馬を縛って動かないようにし、納得させるという調教です。
今の時季は氷点下に近い気温。そこに30分から1時間ほどじっとまたがって、馬とコンタクトを取る作業は、はた目からも過酷。そんな環境で師が目指す「馬の最低限のプライドまで傷つけないよう、譲れるところは譲った上で納得させる」というところまで仕上げられるのは、騎手時代に重ねてきた経験がモノをいっているのは間違いありません。
聞けば、今回のアプローチもうまくいったようです。その上で「ピーヒュレク騎手にもゲート内で確認してもらいました。動きが予測できればレースでも対応できますから」とのこと。
細かい心遣いも騎手心理を知り尽くしているからこそ。さまざまなことがしっかり噛み合って結果に結びつくと見立てて、◎を打ちます。
「ベガはベガでもホクトベガ!」
93年エリザベス女王杯でホクトベガが①着でゴールに飛び込んだ瞬間の実況です。当時、浪人生でフラフラしていた自分にとっては衝撃的であり、今でも予想の根底に根付いています。
ベガはバリバリの良血馬で鞍上が武豊。牝馬3冠にリーチをかけていました。対して、ホクトベガは父がダート血統でベテランの加藤和を配したいぶし銀のコンビ。春2冠でベガに大きく後塵を拝したホクトベガに勝ち目はなさそうでしたが、見事にリベンジ。この“逆転劇”こそが競馬の醍醐味ではないでしょうか。
かつて作家の寺山修司氏は「競馬が人生の比喩なのではない、人生が競馬の比喩なのである」と評したそう。馬も人も生きている間はいつかの大逆転を狙っています。雑草でもエリートを超えるチャンスはあるはずと、きょうもトレセンを奔走しています。