中央に負けない 熱中!!地方競馬

公開日:2021年5月3日 17:00 更新日:2021年5月3日 17:00

■全国15の売り上げ急増に自治体ウハウハ

 地方競馬のひとつ、川崎競馬場で今年1月、スターホースが誕生した。交流GⅠ川崎記念を制したカジノフォンテン(船橋・山下貴之厩舎所属)だ。中央馬でGⅠ4勝のオメガパフュームを退けての3馬身差。地方馬の勝利は、同じ船橋のフリオーソ以来10年ぶり。鞍上の張田昂は、無観客のスタンドに向かって右手人さし指を突き上げた。

 好メンバーに沸き、川崎記念の売り上げは前年比40・5%増の19億円あまりでレースレコードを更新。その日1日の売り上げも同23%増の約33億円と、昨年のレコードを上回っている。

 今、地方競馬が熱い。全国15競馬場の総売り上げは、昨年4月から今年2月までの合計が8369億円あまり。前年を28%上回る。JRAは4%増だから、中央に勝る勢いだ。好調ぶりは都心に近い川崎だけではなく、すべての競馬場が前年比プラス。姫路は何と2・8倍、門別、帯広、佐賀の3場は約6割増、高知は51%増と小規模な競馬場ほど好調だ。

「昨年はコロナ禍でステイホームが広がり、自宅で楽しめるレジャーのひとつとして地方競馬のインターネット投票が定着。そのため各競馬場の集客に関係なく、全国のファンが各地のレースに投票していただけたことが、売り上げ増に結びついたようです」(地方競馬全国協会の広報担当者)

 場外発売のうちネットなどの電話投票の売り上げは、前年比約6割増。中央に比べて遅れていた電話投票がコロナで一気に加速したことが、売り上げ増に一役買ったという。

 地方競馬の盛り上がりから、船橋競馬場は2024年春の完成に向け、大規模改修工事を行っている。完成後は緑豊かな中、馬と触れ合えるエリアが新設されるなど、家族で楽しめるテーマパーク施設を充実。攻勢に出ようとしている。

 好調な地方競馬の恩恵にあずかるのが、地方自治体だ。一般に馬券の売り上げは、75%が配当に回り、残りの一部は競馬を運営する自治体に分配される。

■神奈川、川崎の分配金は何と11倍!

 前述の川崎競馬は、神奈川県と川崎市で構成される組合が運営母体で、昨年度の分配金は神奈川県が40億2000万円、川崎市が20億1000万円に上る。前年度の11倍で、税収が落ち込む自治体にとっては、この上ない“臨時ボーナス”だ。

■大井の馬房は争奪戦に

「ウチに預けたいという相談が増えているけど、断らざるを得ないことも多いね」

 こう言うのは、南関東のある調教師だ。馬主から愛馬の預託を依頼されてもNGとは、どういうことか。競走馬の生産頭数と厩舎の馬房数、厩務員の数などのバランスが関係しているという。

 サラブレッドの生産頭数は1970年代から1万1000頭前後で推移。90年代に1万2000頭を超えたが、バブル崩壊、リーマン・ショックを経て2012年から6000頭台に低迷した。それがじわじわと盛り返していて、昨年は7556頭に回復。ピーク時の6割ほどだが、何のバランスが悪いのか。前出の調教師に聞いた。

「地方の競馬場が次々に閉鎖され、馬を受け入れる厩舎が減ったのがひとつ。もうひとつは、地方競馬の厩務員の不足。牧場などで下積みをした人が厩務員になるのが一般的だけど、牧場でのなり手が少ないから、こっちも不足する。一方で新規の若い馬主さんは増えていて、セリの落札率が上がっているんだ。馬主が馬を手に入れても、預ける厩舎が少ないし、厩舎はそもそもスタッフの不足で受け入れたくても受け入れにくい。都心からアクセスのいい南関東、特に大井の馬房は争奪戦状態さ」

 厩務員の不足については、外国人で補っている競馬場もある。帯広や笠松、名古屋、高知などでは、インドや中南米の厩務員が馬の世話や調教をしている。その中には、本場・英国で10年を超えるキャリアを積んだ本格派もいるという。外国人なしに物事が回らないのは一般社会も競馬界も同じだが、南関東は違うらしい。

「南関は繁華街が目と鼻の先。外国人が仕事のつらさに抜け出したり、遊びの誘惑に負けたりするリスクがゼロじゃない。そこを気にして、上が受け入れに消極的なんだ。その理屈は分からなくもないが、現場の人手不足は慢性的。受け入れてほしいね」

■産地のセリだけじゃない 中央馬の払い下げ買うのはネットでポチッ

 その一方、競走馬の取引は活況だ。北海道や東北などの馬産地で開かれるセリはもちろん、地方競馬で走る馬はネットで取引されるケースも増えている。馬主資格を持つ牧場主が言う。

「代表的なのは楽天が運営するサラブレッドオークションで、毎週木曜に開かれます。出品されるのは、中央で勝てなかったり、伸び悩んだりした払い下げで、ダーレーやラフィアンなど大手牧場の生産馬も珍しくなく、毎週チェックし、スマホで入札するんです。入札開始価格が数万~数十万円の馬も多く、掘り出しモノが手に入りましたが、最近は私の予算だと競り落としにくくて。少し前は数十万円で買えた馬が、今は100万円近くなることもある。良質な母系だと、150万円を超えることもしばしばだから、相場が上がっています」

 億単位のカネが飛び交う日本最大級のセレクトセールもスゴイが、家電を買うかのように馬をネットでポチるのもスゴイ。その中には、サラリーマン馬主もいるという。地方競馬といえど庶民には想像を絶する世界だ。

■馬券的中の3ステップ

「馬券は、地方の方が当たりやすい」

 こう言うのは、本紙コラム「発見! 虎の穴」でおなじみのフリーアナウンサー舩山陽司氏だ。ネットで南関東4場の予想を配信するなど、地方競馬にも精通する。舩山氏が言う。

「熊本の荒尾競馬場(11年に閉鎖)を訪ねたとき、ある馬はパドックでシャドーロールの緩みを気にするそぶりをしていました。それでイレ込み、返し馬では振り落とそうとして首を振って走り始めたのです。上位人気でしたが、『これはダメだな』と思って、外したら大正解でした」

■パドックが中央より分かりやすい

 中央ではパドックをスルーする舩山氏も地方ではチェックするという。

「荒尾ほど極端なのはレアケースでも、地方競馬は変なクセのある馬、イレ込む馬が中央より目立つから、馬券に反映させやすい。パドックの面白さは断然、地方です」

■メンバー比較が楽

 中央の条件戦で本賞金が加算されるのは、勝ち馬のみ。ところが、地方では⑤着まで賞金加算の対象になるケースが多い(ポイント制の園田も⑤着まで)。これがミソだという。

「勝ち馬はともかく、②~⑤着馬は昇級まで時間がかかるため、レースが替わっても再戦するメンバーが少なからずいます。さらにホームの競馬場で走り続けるのが基本。距離経験も近いので、能力比較が中央より楽なのです」(舩山氏)

 そうすると、人気が集中しやすいが、そこは穴党、前述したようにパドックを役立てるそうだ。

「人気馬が危うい状態と判断できることも中央より多いので、万馬券の取りやすさも地方です」

■遠征馬は狙い

 中央も地方も、レースの賞金以外にもいくつか手当がある。そのひとつが出走手当で、完走した馬すべてに支給される。

 ある大井の調教師は、出走手当を理由に遠征の秘密を説明する。

「大井の出走手当は、重賞とA、Bクラスが16万5000円で、C1とC2が16万円などと比較的に高い。それがほかの3場に遠征すると、半分以下の7万~8万円だぞ。勝ち負けが確実のときじゃないと遠征する意味がないし、馬主への説明がつかない」

 逆もしかりで、川崎の馬が川崎で出走すれば手当は10万円を超えるが、大井に遠征すると、7万円ほどだ。地方の出走手当はホーム優遇のため、遠征馬はそのぶん、本気度が違うのだ。

最新記事一覧

  • アクセスランキング
  • 週間