トレセン記者 記憶の名馬たち

【記憶の名馬たち】栄光、挫折、復活 全てを味わった現役生活 エンゲルグレーセ

公開日:2019年9月19日 17:00 更新日:2019年9月19日 17:00

 東西トレセンを駆け回るゲンダイの現場記者たちはそれぞれ担当厩舎を抱えている。長年、取材を続ける中、記録だけでなく記憶に残る名馬との出会いも。厩舎関係者とともに、その懐かしい足跡をたどってみる。第13回は美浦・飯島記者の忘れられないあの馬――。

 栄光、挫折、そして復活――。これら全てを味わったエンゲルグレーセの現役生活はまるでジェットコースターのよう。仙葉助手(当時は調教厩務員)が入厩当初をこう振り返る。

「馬房に入れると、すぐに襲い掛かってきた。初日から大ゲンカだよ。とにかく我が強くてさ」

 何とか態勢を整えて3歳1月にデビュー。1番人気に応えて快勝し、能力の片鱗を見せたのが五百万だ。中山ダート千八1分52秒7の好時計でV。首差退けたマイネルコンバットはのちに交流GⅠジャパンダートダービーを制している。

 充実期は4歳夏にかけて。北海道でマリーンS→エルムSと連勝。ともに4馬身差をつけた。

「重賞の時は岡部さん(岡部幸雄元騎手)が“隣の馬を噛みにいきやがった”って笑いながら言ってた。順風満帆? これだけ強けりゃねえ。GⅠへ手が届くところにはいたかも」

 しかし、ダートに矛先を向けてきた怪物クロフネの登場により、歯車が狂い出す。武蔵野Sで人気を分け合ったライバルは、東京ダート千六1分33秒3という驚異的なレコードで大楽勝。エンゲルは1秒7差をつけられて④着に敗れた。

「あんなに強いとはね。4コーナーで競りかけていったけど、余裕で突き放された。ま、上には上がいたってこと」

 この敗戦が負の連鎖を招くことに。脚部不安による長期休養、復帰後もスランプが続いた。
“引退”の文字がちらつき始めていた明け8歳。ここで一筋の光明が差し込む。距離短縮で臨んだガーネットSはしんがり16番人気ながら、猛然と追い込んで②着。その後、交流GⅢクラスターCで4年ぶりに勝利の美酒を味わった。

「失敗を経験して得るものもあったんだ。腕のある獣医さんや装蹄師さんにも出合えた。周りの人たちの助けがあって、また重賞を勝てたと思う。結局、GⅠは1回も使えずじまい。そういう運はなかったな……」

 大舞台での活躍はかなわなかったが、開業1年目の奥平厩舎に初タイトルをもたらした功労馬だ。 (美浦・飯島理智)

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