トレセン記者 記憶の名馬たち

【記憶の名馬たち】アストンマーチャン 最強世代のスピード女王による衝撃の重賞初制覇

公開日:2019年8月29日 17:00 更新日:2019年8月29日 17:00

 東西トレセンを駆け回るゲンダイの現場記者たちは、それぞれ担当厩舎を抱えている。長年、取材を続ける中、記録だけでなく記憶に残る名馬との出会いも。厩舎関係者とともに、その懐かしい足跡をたどってみる。第10回は栗東・勝羽記者の忘れられないあの馬――。

 夏の小倉を締めくくるのはGⅢ小倉2歳S。このスプリント戦は、スピード値に長けた馬たちが活躍する場。印象に残る一頭なら、間違いなく06年の勝ち馬アストンマーチャンでしょう。

 愛くるしいルックスの牝馬でした。額から鼻先へとスラリと伸びた大流星にパッチリとした瞳。明らかなアイドル顔です。反して馬体は丸々としてグラマラス。特に、後肢は大きくて柔軟な筋肉に包まれていました。今でいえば、“ポッチャリ系アイドル”でしょうか。その大きなトモこそが超一流のエンジンでもありました。

 担当した上田助手はデビュー当時をこう懐かしみます。

「入厩後、坂路が閉鎖になり、Cウッドで乗ったことがあってね。そしたら、前の自厩舎の馬を皆、軽々と抜いてくる。2歳馬がコースを1周半しても息ひとつ乱さずにね。メディカルチェックでもものすごい高さまで脚が上がる。獣医も驚くくらいに半端なく柔らかい。“これは走る”と思ったよ」

 それでもアストンのデビュー戦は②着。物見で外に逃げたことが敗因でした。余裕がありすぎたのです。

 ただし、次走の小倉で初勝利を挙げると本領発揮。続く、小倉2歳Sこそが圧巻でした。ストラテジーが逃げて前半3Fは何と32秒5。レース史上最速(現在も)の激流を驚くことに馬なりで2番手を追走。そして、4角を待たずの先頭から堂々と2馬身半差をつけて押し切ったのです。

 レースの次週、上田さんとの会話でも衝撃を受けました。

「レース後、乗った良太(鮫島良騎手)から聞いたけど、前走で勝った竜二(和田騎手)から“絶対に落ちるなよ。掴まっていれば、勝てるレベルだから”とアドバイスを受けていたみたい」

 この言葉に、どこまで活躍の場を広めるのかの楽しみも膨らんだもの。

 アストンののちの活躍はご存じのとおり。3歳秋のスプリンターズSではニシノフラワー以来、2頭目の3歳牝馬として勝利を挙げてGⅠホースに。ウオッカ、ダイワスカーレットに続き、04年生まれの牝馬は“最強世代”を証明しました。

 今年の小倉2歳Sではどんなタイプのスターが誕生するのでしょうか。楽しみです。
 (栗東・勝羽太郎)

■関連記事

最新記事一覧

  • アクセスランキング
  • 週間