美浦の朝は早い。
今は午前6時が調教コースの開門時刻。始まると同時に各厩舎の馬が続々コースへ入っていく。
その隊列を横山典は騎手スタンド前のベンチにコーヒー片手に座り、じっと見つめている。
調教に騎乗している時はもちろん別だが、それ以外の時間は大抵、道行く馬、調教から上がってくる馬を静かに観察しているのだ。
そして、気付いた点があると、馬上のスタッフや調教師に自ら話しかける。的確なアドバイスを送り、意見の交換を。
ベテランともなると、追い日だけトレセンで顔を見かけるケースが少なくない。その中、横山典はほぼ毎日このスタイルを貫いている。
そんな姿に感銘を受けている調教師は少なくない。日経賞でサクラアンプルールの手綱を委ねる金成師もその一人。
同じ“サクラ”の冠名が付くサクララージャンの初勝利時(1月27日、東京2R3歳未勝利ダート二千百メートル)の言葉が印象に残っている。
初ダートだったため、砂をかぶった時の心配などがあった。そんな心配を一蹴。絶妙のエスコートで、あっさり抜け出してきたのだ。
その後、祝福の意を伝えると、「誰を乗せてると思ってるの? ノリちゃん(横山典騎手)だよ(笑い)」。この言葉だけで信頼度の高さが分かるというものだろう。
当然、今回のサクラアンプルールにも期待が高まる。それに応えるべく、鞍上もここ2週、追い切りにまたがり、感触を掴んでいる。
「順調にきてるなって感じがしたな」
――今週はウッドで併せ馬。タイムは6F87秒9―40秒9、1F12秒3でした。しまいの反応は素晴らしかったですね。どうでしたか。
横山典騎手「順調にきてるなって感じがしたな」
――調教メニューをいかにこなしていくかを重視するジョッキーですからその一言で十分です。調教から上がってくる時の表情も穏やかでしたしね。さて、約2年ぶりの騎乗。フィジカル面で変わりはありましたか。
「うーん、取り立てては分からないなあ」
――メンタル面は。
「オレと一緒で円くなったな(笑い)」
◇ ◇ ◇
課題である前向き過ぎる気性は手の内に入れている様子。加えて、厩舎スタッフの言を加えると競馬のイメージもできているよう。どのようなレースを見せてくれるか、期待は膨らむばかりだ。